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ピンチ
「それ、本当なの?」
「あぁ、圭斗と一緒だったから間違いねぇよ。アイツ、なんでかあの時の事は誰にも言うなつって隠してっけど……」
頭が痛い。身体が鈍りのように重くて上手く動かすことが出来ない。
ボソボソと誰かの話し声が聞こえてきて、怜旺は重たい瞼をうっすらと開いた。
「ん……ッ」
何度か瞬きを繰り返すと、漸く霞んでいた視界からピントが合い始め、見覚えのある天井が目に入る。
たくさん並んでいる無機質な机から伸びる無数の配線から察するに、此処は情報処理室のだろうか?
何で自分はこんな所で寝かされているんだ……。
自分の身に何が起こったのか、思い出そうと思考を巡らせていると、横から聞き慣れた声が響いてきた。
「お、気付いたみたいだな」
「お、お前は……っ」
ツンと鼻に突く煙草の香りと赤茶色に染まった短めの髪。夏休み中に更に増えたピアスが夕陽に照らされて不気味に光る。
「……八神……一体何のつもりだ!?」
ニヤリと口角を上げて不敵に笑ってみせる亮雅の顔を睨み付けて、怜旺は腕に力を入れて起き上がろうとした。
だが、ガチャリと言う金属音が虚しく辺りに響き、両手を拘束されてしまっている事に気付きチッと舌打ちが洩れる。
状況がわからないまま両手を動かすがガシャガシャとまた耳障りな音が聞こえ
るばかりで何の意味も成していない。
「くそっ、何でっ!」
「暴れんなって。今のところは別に手荒な真似するつもりはないんだ。ただ、アンタにちょっと聞きたいことがあるだけで」
「聞きたいこと……?」
ようやく重い頭を持ち上げ、上半身を起こして亮雅の顔を真正面から睨み付けると、亮雅が怪しく笑いながらジリジリと怜旺に歩み寄って来た。
「アンタ、圭斗に一体何しやがった」
「……あ?」
「とぼけるんじゃねぇよ。圭斗の奴、アンタとつるみだしてから変なんだ。ヤれる女紹介してやるつっても必要ねぇつって全然来ねぇし……。いきなりバイトなんて始めやがって、忙しいから遊ぶ暇ねぇとか。意味わかんねぇ!」
ありったけの憎悪を込めた目で凄まれて、呆れたように怜旺は溜息を吐いた。
何故、女と遊ばなくなったのかは一旦置いておくとしても、バイトを始めたのは圭斗自身の選択であり、それに関しては自分に責任はない。
自分の事が好きだとか訳の分からないことを言っていないで、もっと青春を謳歌したらどうかとこっちが言いたいくらいなのに。
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