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ピンチ6
「け、圭斗……っなんで此処に……っ!? でも、いいだろ? こんなオッサン。俺にもマワしてくれよ……ギャッ!」
おもむろに圭斗が亮雅の腹をけり上げた。亮雅が二つ折りになって崩れ落ちる。圭斗の仮面のような顔からは感情らしいものは一切伺えない。だが、全身から立ち上る殺気がその怒りを雄弁に物語っていた。
「ひっ、ご、ごめんて、圭斗! か、勘弁しろよ……げふ、うっ!」
床に伏して詫び続けるのを、圭斗が容赦なく蹴り続ける。その何処か非現実的な光景に、懐かしさと虚しさを覚え怜旺は自嘲するように口端を僅かに上げた。
さっきまでの威勢は何処へやら、痛みに蹲る亮雅の頭をガッと踏みつけて顔を地面に叩きつけた。
亮雅はびくりと大きく身体を震わせるとそのまま弛緩した。どうやら気を失ってしまったらしい。
圭斗が同じ部屋に居てそっと逃げ出そうとしていた都築をぎろりと睨み付けると、都築は慌てて怜旺を差し出すように背後に回った。怜旺の肩に置かれた手がガクガクと震えている。
「……ッ,ぼ、僕は別に何も……っ亮雅君にやれって脅されて……ひっ!」
伸びて来た圭斗の腕に自分も殴られると思たのか都築が身を縮こませる。だが、圭斗は怜旺を奪うように引き離し、そのまま抱き締めた。
「この《《人》》に手ぇ出すなつってただろうが!」
熱い身体が怜旺を包み込む。力強い腕に閉じ込められて、怜旺の中でずっと閉じ込めて来た思いが膨れ上がった。
ずっと、自分をモノでは無く、一人の人間として見て欲しいと願っていた。自分にはそんな価値はないと父親から言われ続け、最愛だった人からも裏切られて来たが、それを覆して自分を必要とされてみたいと心の奥底ではずっと願っていた。
でも、ずっと出来なかった。人を好きになる事が怖かった。裏切られて悲しい思いをするくらいなら、もう誰も好きにならなければ良いと思った。
でも……。
嗅ぎ慣れた圭斗の香水の香りが全身を包み込み、その体温が怜旺の凍てついた心に沁みていくようだった。
怜旺を抱く腕が一瞬だけギュッと強くなる。体で感じる圭斗の速い鼓動が、もしかしたら怜旺を心配して探し回ってくれていたのでは? と思わせた。思わず圭斗を仰ぐと、彼も怜旺を見つめている。
目が合った瞬間、二人の間に流れる空気が変わった気がした。無性に圭斗の唇が欲しくなり口を寄せようとした瞬間、地面に突っ伏していた亮雅がううっと呻いてゆっくりと起き上がり、ハッとして我に返った。
自分は今、何を考えた?
圭斗は二人を睥睨し、低い声で睨み付けた。
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