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ピンチ 7
「おい、スマホを寄越せ。俺は今、猛烈に機嫌が悪い。……言ってる意味が分かるだろ?」
怯えた都築が大慌てでスマホを差し出す。それをひったくる様にして奪うと、圭とは何やらそれを操作してから都築の手元に投げてよこした。
「今度ふざけた事してみろ。こん位じゃ済まさねぇぞ」
地を這うような低い声。都築が震えながら亮雅を引きずって慌てて教室を出て行った。
二人が消えると、圭斗は乱れた怜旺の姿を見て僅かに眉間にしわを寄せた。
「……アイツら……ふざけた真似しやがって……」
ぎりっと奥歯を噛みしめて二人への怒りに震え拳を握り締めながら、括られた手錠を外してやると圭斗はくるりと怜旺に背を向けた。
「取り敢えず、服着ろ」
言われてようやく、下半身丸裸の自分の姿に気付いた。シャツはボタンがいくつか弾け飛び、見るも無残な姿になっている。
投げ出されていたズボンをせわしなく身に着ける自分が何とも惨めで情けなくて、思わず唇を噛み締めた。
その様子を気配で感じ取ったのか圭斗は気に食わない様子で舌打ちすると、入り口付近に投げ捨てたカバンの中から自分の体操着を取り出し怜旺に投げてよこした。
「これを着ろって?」
「仕方ねぇだろ。デカいかもしれねぇけど。ホラ早くしろって」
戸惑いながらも怜旺が体操着を受け取るのを見届けてから圭斗は落ち着かない様子でワシワシと頭を搔いた。
そう言えば、どうしてここがわかったのだろうか? 躊躇いがちに袖を通すと体操着からふわっと圭斗がいつも身に着けている香りが漂ってきてドキリと胸が高鳴る。ワンサイズ大きな体操着は圭斗の香りとぬくもりに包まれていて、まるで圭斗に包み込まれているような錯覚をもたらした。
心臓の音がやけに耳について緊張を隠せない。どうしようもなくドキドキして落ち着かないのはきっと、亮雅に無理やり仕込まれた媚薬のせいだ。
「……悪かったな。遅くなって」
圭斗は極力怜旺の方を見ないようにしているのか、そっぽを向いたまま聞こえるか聞こえないか程度の小さな声でポツリと呟いた。
怜旺は俯いて体操着の裾を握り締めたまま首を横に振る。
どう接して良いかわからないのか、圭斗もそのまま黙り込んだ。二人の間に気まずい沈黙が流れる。
お互い意識している事が何となくわかったが、やはりそれ以上言葉を交わす事は出来なかった。
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