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好きなんだ

どれほどそうしていただろう。 先に動いたのは圭斗の方だった。着替えが済んだのを確認すると突然怜旺の頭をくしゃっとして、カバンを持ち上げた。 「取り敢えず、ここ出るぞ」 「……そ、そうだな……」 小さく頷くと、圭斗は腰に腕を回して怜旺の身体を抱き寄せ、ゆっくりと歩き出した。 「って、おいっ離せっ」 「馬鹿。下手に暴れんなって。こんな状態のアンタを歩かせるのは俺が嫌なんだよ。良いから大人しくしとけ」 圭斗の腕は力強く、温かい。近づくとよりリアルに圭斗の香りが強くなって激しく高鳴る鼓動が相手に伝わってしまうのではないかと不安になって来る。 「……麗華に感謝しろよ」 「は?」 突然出て来た名前に、怜旺は思わず戸惑った声を上げた。 「アイツが教えてくれたんだ。あの二人がぐったりしてるアンタを連れて、此処に入ったのを見たって」 「そうか、麗華が……」 麗華が気付いてくれなかったら今頃どうなっていただろう?  あのまま亮雅に……? それを考えた瞬間、背筋がぞっとした。 無理やり犯されることには慣れていた筈だ。心無い行為なんて今まで沢山経験して来た。 それなのに、なぜ今更……? 無理やり身体を暴かれた時の嫌悪感が鮮明に蘇る。 無意識のうちに圭斗の腕に縋りつくように身体を寄せていて、それに気づいた圭斗が引き寄せる腕の力を強くした。 「安心しろよ。もう二度とアンタをあんな目に遇わせたりしねぇ。俺が絶対にさせねぇ……っ」 燃えるような怒りを湛えた低い声、抱きしめられた腕の強さが、圭斗の本気を伝えて来る。 自分は馬鹿なのだろうか。同じ轍はもう二度と踏まない。あんな辛い思いをするくらいなら二度と人を好きになんてならないと心に誓った筈なのに。 10歳以上も離れているこんな子供相手にこんなにも心を揺り動かされるなんて。 圭斗に頭をクシャっとされて、胸が熱くなる。何も言えずに俯いていると、何を思ったのかいきなり膝をグワッと持ち上げられた。

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