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好きなんだ 5
「アンタさ、あの人に似てるんだよ。同じ色の瞳しててさ、顔も雰囲気も全然違うのにな……」
あの人、と言うのは十中八九伝説の男の事だろう。だが、圭斗と会ったのはたった一度だけ。しかも随分と昔の話だ。
「小さき百獣の王と俺じゃ全然ちげぇだろ。それに、それと好きって感情がどうやったら繋がるんだ。まさか、ガキん頃から野郎が好きだとかぬかすつもりか?」
「あー、まぁ……そうなんだけど。そうじゃねぇっつーか……。あの人、血も涙もねぇ冷酷人間でとんでもないバケモンだって噂になってたけど、俺にはどうしてもそう言う風に見えなくってさ。初めて会った時、俺はまだ幼稚園くらいだったんだけど。夜に不良に絡まれてた所を助けてもらったことがあるんだ」
「……」
それは知っている。薄々そうじゃないかと思っていた。圭斗はまだ伝説の男が怜旺だと気付いていない筈だが、バイクの件もあるしいつ気付いてもおかしくはない。
「あの人、めちゃくちゃ喧嘩強くってさ、月明かりに反射した姿がすげぇ綺麗で、カッコよくって……。でも、なんつーか、今にも泣き出しそうな目ぇしてて、凄く寂しそうだったんだ」
そこまで言って、圭斗は一旦言葉を切り起き上がって、マジマジと怜旺の目を覗き込んだ。ゆっくりと伸びて来た指先が目元のホクロをゆっくりとなぞる。
「アンタさぁ。あの人と同じ目をしてる……。前髪で隠してるつもりかもしんねぇけど、ヤってる最中とか特にそんな感じがするんだよ。それに気付いちまってから、なんだか放っておけなくてさ。いつの間にか目で追うようになってて、気付いたら好きんなってた」
「な……ッ」
最中に自分がどんな目をしてるかなんて、自分でわかるはずが無い。完全に無防備な状態の心の中まで見透かされたような気がして、思わず顔が赤くなる。
瞳を覗き込むように額が触れ合いそうな程顔を近づけて来た圭斗に驚いて反射的に後ろへ下がろうと身体を反らした拍子に、後ろにあったベットの縁に後頭部がぶつかってしまった。
鈍い音が静かな室内に響く。
「~~ってぇ……」
「フハッ、なにやってんだよ」
圭斗がククッと短く笑い、怜旺の頬に手を伸ばして耳の横にある髪をさらりと撫でる。甘い雰囲気はどうにも苦手で居心地が悪い。
ざわつく鼓動が耳障りで、早く逃げ出したい気持ちと、もう少しこのままこうしていたい気持ちとがせめぎ合う。
その柔らかな手つきから、指先から圭斗の気持ちが伝わって来て胸が苦しい。
自分の事を好きだと言ってくれた言葉に嘘は無いのかもしれない。でも、それに応える事は出来ない。
怖いのだ。 誰かを好きになって、もし、また裏切られたりしたら今度こそ立ち直れない。
もう、あんな思いは二度としたくない。
それなのに……。
ずっとこんな時間が続けばいいなんて、そんな馬鹿な事まで考えてしまう。
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