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自覚と覚悟 3

でもそれは、増田が感じているような意味なんかではなく、単にあいつの態度が気になって仕方が無いだけなのだ。 「目は口程に物を言うって、良く言ったものですよね。獅子谷先生の視線見てたらわかりますよ。椎堂に恋してるって一目瞭然じゃないですか」 「はぁっ……!?」 絶句。他人からそんな風に見えていたとは思いもしなかった。  「べ、べべべっ、別に私は……」 「ハハッ、隠さなくてもいいですよ。まぁ、認めたくないし、人に知られたくないって気持ちは痛い位にわかります。……俺も昔はそうだったんで」 「……増田先生が、ですか?」 増田の意外な告白に、怜旺は思わず食いつく様に尋ねてしまう。すると増田は懐かしそうに眼を細めた。 彼の恋人である鷲野は増田の教え子だったと聞いている。口ぶりからして恐らく彼も生徒だった頃の鷲野に対して、今の怜旺と同じような感情を抱いた事があるのだろう。 「自分は教師だし、相手は未成年のしかも同性でしょ? 世間一般では許されない関係なので……。あいつには自分なんかより相応しい人が現れるんじゃ無いかとか色々考えてしまって……。中々一歩踏み出すことが出来なくて……。結局、自分の気持ちに蓋をして閉じ込めて、気付かないふりをしていたんです」 増田はそう言って寂しそうに微笑んだ。その表情がやけに儚くて、怜旺の心がギュッと締め付けられる。 なんと言っていいのかわからず、押し黙っていると気まずい沈黙を破る様に他の教師陣が職員室内に戻って来るのが見えた。 世間話をしながら一気に賑やかになってくる職員室内に失笑が洩れる。 「……ちょっと出ましょうか」 怜旺は増田の言葉に無言で頷く。勿論、断る事も出来たのだが、何故だか聞いておいた方がいいような……そんな気がしたのだ。

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