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自覚と覚悟 4
学校にほど近い老舗のカフェへと足を運んだ二人は、カウンターの一番奥の席に座った。
午後のカフェは程よく空いていて、店内にはゆったりした時間が流れている。
それぞれ注文した物が届くと、怜旺はコーヒーを一口飲んでからゆっくりと口を開いた。
「さっき、気付かない振りをしたと言ってましたが……」
「素直になることがどうしても出来なかったんです。和樹の将来を考えたら、自分が縛り付けるべきじゃないって……。一度、酷い嘘を吐いて彼を傷付けてしまった事があって。当時はそれが一番最適で、お互いの為にはそれしかないって思っていたから。……けど、後になってそれはただの自己満でしか無かった事に気付いたんです。まぁ、気付いた時には後の祭りだったんですが」
増田は当時の事を思い出しているのか、少し苦い笑みを浮かべながらコーヒーに口を付ける。
今の二人からは想像も付かないような過去だ。けれど、二人には二人なりの葛藤が色々とあったのだろう。それが痛いほど伝わって来た。
「まぁ、馬鹿なアイツが俺と一緒に居たいって理由だけで教師になって戻って来た時にはマジでビビりましたけどね。 俺が、教師と生徒って言う立場にこだわり過ぎたから……。って、ちょっと話過ぎましたね」
そう言って照れくさそうに笑う増田からは、憂いのようなものは一切感じられない。過去にどれだけ苦しい葛藤があったのかはわからないが、きっと今は幸せなのだろう。
「――怖く、無かったんですか?」
「え?」
「細かい事は話せませんが、昔……、信じていた人に二股掛けられていたことがあって。それに気付けなかった自分が情けなくて、みっともなくて。どうせ裏切られるのなら、あんな辛い思いをする位なら……。もう二度と人を好きになったりしないと自分に誓ったんです。……それなのに、アイツといるとどういう訳か心が激しく揺さぶられるんです……。気付けば自分の方が深みに嵌ってるような気がして」
若気の至りと言うべきか。奈落の底へと突き落とされたようなあの絶望感と悲しみは、今も怜旺の心の中でまるで毒のように根付き、数年経った今でも完全に払拭出来る事無くこびり付いて離れない。
信じていたのに裏切られた……それが怜旺を臆病にさせてしまっている。
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