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自覚と覚悟 6

「認めたくない。そんなはずが無い。って、否定する言葉ばかり並べたって、結局は自分の心に嘘なんて吐けないんですよ。……なぁんて、偉そうな事言ってますけど、当時の俺は結局臆病者のままで、本当の気持ちを伝えられなくてアイツを沢山傷つけてしまったんですけどね。そんな俺を丸ごと受け入れてくれたアイツには感謝してもしきれないし、いまは本当に……愛しくて仕方ないんです」 増田は遠くを見つめ、まるで眩しいものを見るかのように微笑む。きっと今、彼の心の中には一生添い遂げようと誓った人物の姿があるのだろう。 その笑顔があまりにも眩しくて、怜旺は思わず目を細めた。 (羨ましい……。こんな風に誰かを想う事が出来るなんて) まだ、自分の気持ちには確信を持てない。けれど、もし本当にあの男の事を気に掛けているのなら、怜旺が自分の気持ちを認めるには大きな勇気が必要だった。 「椎堂は何か言って来るんですか? もしかして、先生の片思い?」 「……っ、一応……好きだとか、なんだとか言ってましたけど……でも、それも本気かどうか……。男は笑顔で嘘を吐けるから」 「あー……」 歯切れの悪い怜旺の言葉に、増田は何かを察したのか苦笑して頬を掻く。 「……勇気が、ないんです。それで、どうしたらいいのかもわからなくて……」 「どうするもこうするもないですよ」 「えっ?」 「恋愛なんて、所詮感情のぶつけ合いなんです。綺麗な感情も醜い心の奥底も全部曝け出して、それで初めて相手を心の底から理解出来るようになるんだと思います。結局は、自分が頑張るしかないんですよ」 「……でも」 煮え切らない態度を見せる怜旺に、増田はやれやれと溜息を吐いて笑った。

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