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ドキドキ文化祭 5
ヒュードロドロドロ……と言う典型的なBGMと共に人の気配がしたら、迫力が出るように「いちまーい、にまーい……」と数を数えながら段ボールで作った井戸から顔を出す。
最初はどうなる事かと思ったが、よほど恐ろしいのか顔を出した瞬間皆驚いて悲鳴を上げて逃げて行ってくれるので、何だか少し楽しくなっていた。
さっきは増田が鷲野に声にならない悲鳴をあげながら抱き着くと言う場面を見てしまって、笑いを堪えるのに必死だった。
薄暗いし、互いの顔もよく見えないのである意味気が楽だし、麗華の化粧が上手いのか誰も自分が獅子谷怜旺だとは気付いていないようで、案外化けるもんだなと感心する。
膝を抱えて待つ事数分。次のターゲットがやってくる気配に気合を入れ直して、さあ来い! と井戸の中から待ちわびる。
他の生徒達のあちこちで上がる悲鳴を聞きながら、おどろおどろしいBGMをかけ雰囲気が出るようにゆっくりと身体を起こして顔を上げる。
「いちまーい……にまーい………さんまーい……一枚足りな――……い!?」
不意に視界を妨げていた長い髪に指が絡んで視界が開けた。視線を上げると至近距離に圭斗のドアップがあって、思わず固る。
「……何やってんだよアンタ」
「いや、お化け役やる予定だった央が倒れたっつーから急遽……」
顔、近ぇし……! 暗がりでも互いの顔がよく見えるくらいの距離に思わず動揺してしまう。こんな間近で圭斗を見たのは久し振りだな、なんて思っていると不意に大きな手が頰に触れて来て心臓が飛び跳ねた。
「……」
「……」
「プッ」
互いに見つめ合う事数秒。先に沈黙を破り噴き出したのは圭斗だった。
「な……っ、てめっ笑う事ねぇだろっ」
「あはは、だって……中にすっげぇ殺気出してるやべぇお化けがいるっつーから来てみたら……伝説の男がお化けとかマジ、やべ、ツボった……」
「……っ、うるせーよ! 好きでやってんじゃねぇっての! つか、笑うな馬鹿!」
恨めしそうに睨みつけると、圭斗は悪ィ悪ィと苦笑を浮かべながら謝るが、まだ可笑しいのか小刻みに身体が震えている。
酷い。こいつ人の顔を見て大爆笑しやがって……! でも、屈託なく笑う顔は何処となく幼く見えて、自分にだけは心を開いてくれているのではないかと優越感を覚えた。
やっぱり、圭斗の笑っている顔を間近で見るのは嫌いじゃない。もっと笑っていればいいのになんて思いながらも、出来れば自分だけに見せて欲しいとも思う。
そんな自分の我儘な気持ちに自嘲しながら、怜旺は気を取り直して次なるターゲットを待ち構える事にした。
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