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初デート 5

『あー、いや……別に用って程のもんじゃねぇけどさ……明日休みだし、アンタが暇だったらどっか行かねぇかと思って』 「え……」 まさか圭斗からお誘いを受けるとは思っていなかったので思わず言葉に詰まってしまった。そんな怜旺に構うことなく圭斗は続ける。 『なんだよ。なんか用事あんの?』 「いや。何も……。ただ少し驚いただけだ」 『ふはっ、なんでだよ。前にも言っただろ? 行きたいとこ考えとけって』 確かに以前そんな事を言われた記憶がある。  「あぁ……そうだったな」 『んで、どっか行きたいとことかあんのかよ』 「……あぁ、まぁ……」 『なんだよ、歯切れ悪いな。どうした?』 「いや……別に。取り敢えず、明日8時に迎えに行く」 『迎えにって、行き先は?』 訝しげな声で聞かれ、怜旺は黙り込んでしまった。 まさか流石に自分の口から水族館か動物園に行きたいとは言い辛い。 それに、よくよく考えてみれば男二人で水族館や動物園はキツくないだろうか。 『獅子谷?』 「……」 『おーい、大丈夫か?』 『怜旺?』 黙り込んでしまった怜旺を不審に思ったのか、圭斗が名前を呼んできた。 「っ、ちゃんと聞こえてるっつーの!! とにかく! 明日8時に迎えに行くから早く寝ろよ」 『え? いや待て! まだ話が終わってねぇだろ!』 「じゃあな」 これ以上話しているとボロが出そうで怖いので強引に会話を終わらせて電話を切ってしまった。 そのままスマホを投げるように枕元に置き、枕に顔を埋めた。恥ずかしさを誤魔化すように枕に顔を埋狭いベッドの上をゴロゴロと転がって唸る。 この年齢で、気の利いたデートスポットの一つも思いつかないなんて、呆れられただろうか? 思い切って正直に打ち明けた方がまだマシだったか?  正直言ってデートと言われてもなにも思いつかない。遊園地か映画館か、ゲーセンか……。 未成年の圭斗を昼間っから飲みにつれ歩くわけにもいかないし。カラオケは……歌は苦手だし間が持ちそうにないので却下。 一瞬、同僚の増田にそれとなく聞いてみようかとも思った。 でも、そんな事をしたら…… 「クソッ……何でこんなに悩んでんだよ」 枕に顔を埋めたままモゴモゴと呟く。チラリと手首のブレスレットを視界に入れて、再び枕に顔を擦りつけた。 きっと今日は眠れないだろう。悶々とした気持ちを抱えたまま怜旺は固く目を閉じた。

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