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初デート 6
翌日は晴天。絶好のお出かけ日和だった。
昨夜は案の定なんだかソワソワして中々寝付けなかった。
「……随分と気合入ってんな」
「そ、そうか?」
愛用のバイクで時間ぴったりに圭斗の家の近くまで行くと、約束の10分以上前だと言うのに圭斗は既に家の前で待っていた。
怜旺の姿を認めるなり、髪の間から覗く薄茶色の双眸が怜旺の全身を上から下まで観察するようにチェックする。
今日はいつも学校で着ているような普通のスーツ姿とは違い、比較的ラフな格好になるように選んできたつもりだったが、何処かおかしかったのだろうか?
カーキ色のパンツにミディアムグレーのテーラードジャケット。中には白地に黒のボーダーTシャツを合わせ、昨日貰ったブレスレットとシルバーのネックレスを付けている。髪型こそオールバックにしているが、それ以外は特に手を加えていない。
「何処か変なのか?」
「いや、なんつーか……、新鮮だなと思って」
「なんだそりゃ」
頬を掻き、何故か視線を逸らす圭斗を怪訝そうに見て首を傾げた。
「まぁいいじゃねぇか。それより、いい加減行き先くらい教えろよ。まさか、着くまでナイショとか言うんじゃねぇだろうな」
「……」
「おい」
「言ってなかったか?」
「すっとぼけやがって、そう言うのいいから教えろよ」
此処まで来て、今更だろ? とまで言われてしまえば返す言葉もない。
「……笑うなよ?」
「笑わねぇよ。つか、もったいぶられると余計気になるだろ」
確かに圭斗の言う事も一理ある。怜旺は観念したように息を吐くと髪を掻き上げて圭斗にチラリと視線を向けた。
「……水族館に行こうかと思ってる」
言った瞬間、圭斗がピシッと固まった。少し呻いたかと思うと神妙に眉を寄せ顔を覗き込んで来る。
「……ワニと格闘でもすんのか?」
「なんでそうなるんだ!」
「いや、だって……水族館って! 伝説の男が行くイメージねぇだろ!」
「一々伝説の男って言うな! つか、行きたくねぇならいい。俺一人で行くから」
そう言ってふいっとそっぽを向いてバイクに跨ろうとしたら慌てて肩を掴まれた。
「いや、行くし。 そんな怒るなよ……ちょっと言い過ぎた。ごめん」
後ろから抱きしめられ、怜旺はヘルメットを持つ手に力を込めた。
別に怒っているわけじゃない。ただ、圭斗があまりにも馬鹿にするから少しムッとしてしまっただけで。
正直、自分でもこのチョイスはないんじゃないか? と思ったりもしたが、自分が思いつく選択肢の中では一番マシだったのだ。
「……ヘルメット被れよ」
こういう時、何と返していいのかわからずぶっきらぼうにそれだけ言うと、もう一つ準備していたヘルメットを圭斗へ投げて寄越し、バイクに跨った。
「行くぞ」
早く乗れとばかりに促すと、まだ何か言いたそうにしていた圭斗が渋々とバイクに跨り、怜旺の腹に手を回す。
その体温に少しドキドキしたのは内緒だ。
「しっかり掴まっとけよ」
ギュッとしがみつくように回された腕に何となくむず痒い気持ちになり、エンジンを噴かすとゆっくりとバイクを発進させた。
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