233 / 342
初デート7
平日の午前中と言うこともあり、水族館は比較的空いているようだった。
休日は家族連れやカップルで混み合うとネットに書いてあったのでどんなものかと身構えていた部分もあったが、これならゆっくり回れそうだと少しホッとしたのは内緒だ。
チケットを購入する際、当然のように怜旺が二人分の料金を支払おうとしたのだが、どうしても此処は払わせろと言ってきかなかったので、渋々圭斗に奢ってもらう事にした。
折角のデートなのだから、どうせなら楽しく過ごしたい。だから、ここは圭斗の言葉に甘えるべきだろうと判断した為だ。
水族館の中は薄暗く、ぼんやりとした間接照明が足元を照らしている。全体的に青系統の光で統一されており、神秘的で美しい海の中を思わせる仕様になっていた。
館内には様々な水槽があり、四方八方がガラス張りになっていた。自分の頭上を優雅に泳ぐ銀色の魚の群れを見上げ、思わずほぅ……と溜息が漏れる。
「すっげ、見ろよ。あれ……! 巨大な渦の塊みてぇだ」
「あっちには、すげぇデカイ鮫がいるぞ!」
「亀って、海の中だとあんなに伸び伸びと泳げるんだな」
「あ! あっちは、イルカの水槽があるみたいだ」
十数年ぶりの水族館に圭斗と一緒に来られたのが嬉しくて、つい夢中になって圭斗をあちこち連れ回した。
イルカショーのある屋外水槽へ辿り着いた時、目の前を歩くカップルが手を繋いで仲良さげに歩いている姿が目に入った。
異性同士なら手を繋いで堂々と歩いていても違和感がないが、自分達は流石にそう言うわけにはいかない。
人目も憚らずくっついていたいわけではけしてないが、何となく二人の間にある微妙な距離感が少し歯痒く思えて、そっと圭斗のジャケットの裾を掴んでみた。
ともだちにシェアしよう!