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初デート 9
「どうした?」
「あ……。いや……。なんでもない」
いざ尋ねられると、急に後悔が押し寄せて来る。自分は何をやっているのかと、慌てて裾から手を離そうとしたが、圭斗がその意図を汲んだのか、突然怜旺の手首を掴んで引き寄せ自分のジャケットのポケットの中へと突っ込んだ。
「ちょっ、お前なに……っ!」
「手ぇ繋ぎたいんなら遠慮なく言えばいいのに」
ニヤッと悪戯っぽく笑う圭斗に思わずぐっと息を呑んでしまう。自分よりも少しばかり大きな手が、包み込むように指を絡ませてきてドキッと胸が跳ねた。
「べ、別に繋ぎたかったわけじゃねぇし」
「はいはい。わかった、わかった。俺が繋ぎたいからこうしてようぜ」
「っ、勝手にしろ!」
自分の心情を見透かされたようで何となくバツが悪かったが、圭斗はさして気にしていないようで、上機嫌で怜旺の手を引きながら端の方のベンチに並んで腰を降ろした。
「今から、イルカのショーが始まるみたいだし、休憩がてら観て行こうぜ」
薄暗かった館内とは違い、観覧席は頭上から差し込んでくる太陽の光で照らされていていつ誰に見られるかわからない。
圭斗は気にしすぎだと言うけれど、やっぱり怜旺としてはどうしても気になってしまう。
「なぁ、やっぱり手を……っ」
離してくれと言おうと顔を上げたら、目前に圭斗の顔が迫っていた。一体なにを考えているのかと、咄嗟に空いていた左手で圭斗の顔を押し返した。
「なんなんだ」
「キスしてほしそうな顔してたから」
「するかっ! こんな所で。目ぇ悪いんじゃないかっ!?」
「じゃあ、人目につかない所だったらしていいんだ?」
「っ、そ……そう言う意味で言ったんじゃない!」
いちいち揚げ足を取るようにからかわれては堪ったものじゃない。怜旺は顔を真っ赤にして圭斗を睨み付けた。それすらも楽しそうにニヤニヤ笑っている圭斗が憎たらしい。
「……性格悪いなお前」
「そんな俺に惚れたんだろ?」
ニッと口角を上げて勝ち誇ったように言われてしまっては返す言葉もない。図星を指されてぐっと押し黙ったタイミングで、軽快な音楽と共にショーの始まりを告げるアナウンスが流れた。
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