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初デート 12
「おい、ちょっと待てよ」
圭斗が呼び止めようとしても、怜旺は振り向く事なく前だけを向いて早足で薄暗い館内をスタスタと歩いていく。
彼女は一体誰なんだ。自分の記憶の中にある彼の奥さんとは似ても似つかない派手な女だった。そもそも何故大我がこんな所にいるんだ?
「……谷っ」
もしかしたら別人か? いや、あのタトゥを自分が見間違えるはずが無い。
なにより、圭斗を自分だと思って呼び止めた位だ。人違いではないだろう。
なんで今更会うんだ。彼の元を離れてから12年間一度だって会った事は無かったのに……。
言いようのない不安に襲われ、頭の中が真っ白になって思考がうまく纏まらない。胸のざわめきは大きくなる一方で、どうしようもない焦燥感が込み上げて来る。
とにかく、あの場から少しでも早く離れたい一心で怜旺は必死に足を動かした。
「ちょっと落ち着けって!」
後ろから強く腕を引かれてハッとして立ち止まる。気が付けばいつの間にかエントランスの前まで戻って来ていた。
「大丈夫かよ? なんか変だぞお前」
「……悪い」
「別に責めてるわけじゃねぇけど」
圭斗が困惑した様子でこちらの様子を窺っている。圭斗にそんな顔をさせたかったわけじゃない。そんなつもりではないのに……。
「あいつと知り合いなのか?」
「……いや、知らない」
「 嘘吐くなよ。だったら、何で逃げ出したりしたんだ」
「……知り合いに、似てたから驚いただけだ……」
「それだけには見えなかったけど?」
納得していない様子の圭斗にぐっと言葉を詰まらせる。
「取り敢えず出ようぜ。此処まで来ちまったし、もう一度入るって気分でも無さそうだし」
「……悪い」
楽しみにしていたのに、自分が台無しにしてしまった。申し訳なさで胸が痛む。
「別に気にしてねぇから謝んなって。それより、なんか食わねぇ? 俺腹減ったし」
圭斗はそう言っていつもどうり振舞ってくれたが、それが余計に怜旺の心を締め付けた。
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