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初デート 13
「なぁ、帰りは俺が運転してもいいか?」
「は?」
近くの定食屋で味気ない食事をとった後、まっ直ぐに家路につくものだと思っていたのだが、突然圭斗がそんな事を言い出した。
「いや、お前……免許は」
「この間やっと取れたんだよ。やっぱ最初に乗るならこれがいい」
「これがいいって、お前」
免許を取って早々、人のバイクを乗り回したいとは何とも豪胆なヤツだ。呆れてものも言えない。
「頼む! 一度でいいから乗ってみたいんだよ」
拝み倒されて、思わずうっと言葉を詰まらせる。駐車場で頭を下げられたら目立って仕方がない。
通行人がジロジロとこちらを見ている気がして怜旺は眉間に手を充てヤレヤレと溜息を吐いた。
でもまぁ自分だって無免許で運転していた時代もあったわけだし、免許を持っているだけマシと言うものだろうか? 多少不安は残るが仕方がない。
「わかった。乗れよ」
「マジで? サンキュー!」
何がそんなに嬉しいのか。一人でガッツボーズをして凄い喜びようだ。
「随分嬉しそうだな」
「嬉しいに決まってんだろ。なんたって、憧れの伝説の男のバイクだぞ? 嬉しくないわけがないって」
「だから、伝説伝説って、うるせぇんだよ」
何だか気恥ずかしさに苛まれて、つい悪態を吐いてしまったが圭斗は気にした様子も無く颯爽とバイクに跨り「早く行くぞ」とばかりに急かしてくる。
渋々圭斗の後ろに跨ると腰に腕を回す。自分より少し大きい圭斗の背中は思ったよりずっと逞しく、妙な安心感を覚えた。
彼の身体に触れていると、先ほどまで燻っていた不安感や苛立ちが自然と和らいで行くような気がしてくるから不思議だ。
「安全運転で頼むぞ」
「わかってるっての」
エンジン音を響かせながらバイクは走り出した。まだあまり慣れていないせいか、圭斗の運転はお世辞にも上手だとは言い難いものだったが、たまにはこうやって人の後ろに乗るのも悪くないのかもしれない。
辺りはすっかり暗くなり、ベイサイドのネオンが幻想的なカーブを描いて、行く先々を延々とてらし出す。
まるで、星屑が散りばめられているかのような光景に怜旺はほんの少しだけ眼を細め腰に回している腕にキュッと力を込めた。
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