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束の間

なんという怒涛の一日だろう。楽しい水族館デートだったはずが、こんな事態に発展するなんて。 ちゃぽんとバスタブの中で湯が跳ねる。後ろから抱きしめられるように回された腕の中、圭斗の胸元に背中を預けた状態で怜旺は今日の出来事を思い返して深いため息を吐いた。 「なぁ、小春の話……どう思う?」 濡れた髪や肩に口付けられるのが擽ったくて身を捩りながらそう尋ねると、圭斗はうーんと小さく唸り声を上げ肩に顎を乗せかけて来る。 「送信者不明のメッセージで脅されたっつってたよな……」 小春の言い分はこうだった。今日の昼前にスマホのメッセージアプリに見知らぬアカウントから、自分よりうんと年上の男と腕を組んで歩いてマリンへ向かっている写真と共に、『パパ活している事を親や学校にバラされたくなかったら、自分の言う事を聞け。もしも言う事を聞かない場合はSNSに動画を晒す準備は整っている』と言うメッセージが入って来た。 本当にホテルに入った事は一度もないが、パパ活していたことは事実で、それが親や学校にバレるのが嫌で、相手の言われるがまま麗華に連絡を入れ、あの倉庫まで足を運んだ。時間になったら帰っていいと言われていたので、そのまま何事もなければ帰る予定だった。と。 小春や麗華のことを知っていたと言う事は、恐らく学校の犯人は生徒であることは間違いない。 「俺はやっぱ亮雅が怪しいと思うんだ。あんまダチを疑いたくはねぇけど……小春の居場所を知ってたのはアイツだけだったし」 圭斗が湯の中で怜旺の指に自分の指を絡ませて弄りながら、浮かない顔をする。 「そうか? 俺は違うと思う。八神が何か知っているのは間違いないけどそれよりも…………」 「誰か心辺りがあるのか?」 「まぁな」 心辺りがあると言えばある。だが、仮に彼が本当に黒幕だったとしたら目的は一体なんだろう?  そこがわからない以上、むやみに疑うわけにもいかない。
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