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疑惑 3
流石に圭斗の洋服を借りるわけにもいかず、一旦家に荷物を取りに戻ってから学校へと向かった。
幸い、時間ギリギリには間に合ったので遅刻にはならなかったのだが、HRを無事に終え職員室へと戻る途中、スマホを教卓の上に忘れて来たことに気が付いた。
取りに戻ろうと踵を返し、ふと視線を上げて――。
「獅子谷せーんせ」
いきなり鷲野に捕まり、鈍く痛む腰が悲鳴をあげる。
「い"っ!」
思わず小さく呻いて後退ると、鷲野が小首を傾げて覗き込んで来た。
「大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です。気にしないで下さい」
「……ふぅん」
何とか誤魔化そうと笑みを浮かべてみたが、鷲野はじーっと怜旺の顔を覗き込み何かを探るような眼差しを向けて来る。
「なにか?」
「なにか? じゃないですよ。獅子谷先生ってば、そんなとこに印付けてやらしー。もしかして、見せ付けてるんです?」
「っ!」
指摘されて初めて気付く。左の首筋を撫でられて慌てて襟元を掴んで隠すと、鷲野はニヤニヤといやらしい笑みを浮かべた。
「あはは、冗談ですよ。じょ、う、だ、ん。 いやぁ、その反応ってことはやっぱそうなんだ。意外と獅子谷先生もやることやってん――あ、痛! ちょ、先生、足踏んでます!」
「……ッ、何のことかわかりかねますが?」
腹パンしようとした拳を握り締め、ニコリと笑ってそっと足の甲を踏む足に体重を乗せていくと、鷲野は顔を歪めた。
「いやいや! うわっ、マジで痛いんですけどッ」
「だったら、もう少し言葉を選びましょうか?」
若干殺気立って胸倉を掴んで引き寄せ、にっこりと笑う。若干目が笑えてないのはこの際仕方がない。低い声で言うと鷲野は冷や汗を流しながらコクコクと頷いた。
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