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疑惑 5

窓からそっと教室内を覗いてみれば、一つの黒い影がゴソゴソと蠢いている。 ――あれは。 逆光になっていてこちらからは顔が見えない。かと言ってこれ以上近付くとバレてしまう。 よくよく考えてみれば、隠れる必要なんて微塵もなかった。怪しい人物なら取り押さえればいいし、クラスの生徒なら早く授業に行くようにと声を掛けるだけだ。 迷う必要なんて何処にもないじゃないか。 意を決して扉に手を掛け、中に居る人物に声を掛けようとした丁度そのタイミングで予鈴が鳴る。 すると、中に居た人影が慌てたように教室から飛び出して来た。  よほど急ぎの用だったのか怜旺には気付くことなくバタバタと去って行く。 その後ろ姿は間違いなく。 「都築……」 確かに今のは都築だった。ちらりと見えただけだが科学の教科書を手に持っていたし、恐らく忘れ物を取りに来ただけだろう。 よかった。最近おかしな事件ばかりが立て続けに起こっているせいで、疑心暗鬼になってしまっていた。 そっと、教室を覗いてみればつい30分ほど前とあまり変わらない景色が広がっている。 誰も居なくなった教室は広くて何だかよそよそしい。生徒達が使う机、黒板、教壇。見慣れた風景の筈なのにどこか寂しいような不思議な感覚に胸がざわつく。 教卓に置きっぱなしになっていたスマホをポケットに仕舞い、もう一度何気なく教室内を見渡してふと、違和感を覚えた。 都築の席は入り口付近の真ん中にある。だが、先ほど出て行った時は、反対側二列目の後ろの席を探っていたように思う。 自分の席を間違うはずが無いし、あの位置は圭斗の席だったはずだ。 よく見てみればHRの時には無かったカバンが圭斗の机の上に無造作に置かれている。 なぜ都築が圭斗の席を探っていたのだろうか? あまり考えたくはないが、財布泥棒の犯人は――。 ずるりと音を立てて、彼の人懐っこそうな表情の裏にある、どす黒い何かが顔をのぞかせた気がした。

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