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疑惑 7

屋上へ出ると、強い風が正面から吹き付け髪を乱して行った。強烈な眩い朝日が目に突き刺さり、思わず顔を顰める。 普段は誰も寄り付かない場所のせいか、周囲に人影は全くない。 「こっちこっち」 声のする方に目をやれば給水塔の裏に隠れるようにして、椎堂がひらひらと手を振っていた。 彼の顔を見ると、どうしても昨夜から今朝にかけてのアレコレを思い出してしまう。 恥かしさを誤魔化すようにコホンとひとつ咳払いをして、ポケットに手を突っ込んだまま、まるでチンピラみたいにどかりと椎堂の前に座り込む。 「お前、今授業……」 「化学得意なんだよ。実験とか、たるいし。いいじゃん別に」 「いいわけあるか! たく、真面目に受けろ。でないと、進学にだって――……」 「あーあー、うるせぇ! もーその話は聞き飽きた。そんなことよりさぁ」 椎堂は隣に座っている怜旺の襟首を掴んで顔を引き寄せると、お互いの吐息が掛かる程の距離でニヤリと不敵に笑った。なんだか嫌な予感がして、思わず後ずさるとその分距離を詰めてくる。 「近けぇって」 「何照れてんだよ」 「て、照れてねぇ! つか、離れろ馬鹿っ」 「そんな風に必死に強がっちゃってる所も可愛いな」 圭斗は唸って威嚇する猫をあしらうかのように、怜旺の首筋に手を滑らせた。咄嗟に逃げようとする怜旺の両方の耳の横に手を突き、逃げ場を奪ってから唇で耳を甘く挟んだ。 「や、止めろっ!」 昨夜散々シたのに、まだ足りないとでも言うのだろうか。ぎろりと睨み付けてやると、圭斗はククッと笑いながら軽く唇を合わせてきた。 「冗談だよ。そんな怒んなって。忘れモン渡したかっただけだし」 ぎゅっと抱きしめ、頭やら背中やらを撫でながら首筋に顔を埋めて来る。そっと握られた手の中に握らされたのは、文化祭の時に圭斗から貰ったブレスレット。 確かに大切な物だが、別にブレスレット位いつでも渡せるのに。怜旺は拍子抜けして思わず大きく息を吐いた。 「つーか、わざわざ呼び出さなくてもよかっただろうが」 「少しでもアンタと二人きりになりたかったんだよ」 「……っそ、そうか」 ストレートな物言いに思わず照れ臭くなって圭斗から視線を逸らせると、圭斗が小さく笑う気配がして、ぎゅっと強く抱きしめられた

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