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疑惑 9
藻掻けば藻掻くほど、口付けは深まって行く。圭斗を引き離そうと腕に力を入れると、逆にその手を取られて壁に押し付けるように拘束された。
「な、ちょっ、やめ……」
唇が解放されたと思いきや、いきなり首筋に噛みつかれて痛みが走る。そればかりか、圭斗の舌が首筋から耳の裏を辿っていって、思わず上擦った声が漏れた。
「ぁ……っ」
「可愛い声出すなよ。益々苛めたくなるだろ」
耳元で低い声で囁かれ、ぞわりと背中を何かが駆け上がる。この流れはヤバいと本能的に悟り、押しのけようと頭を押すがビクともしない。
圭斗は怜旺の足を膝で割り開いて下腹部を押し付けて来る。
既に熱を持って硬くなっているものがスラックス越しに伝わって来て、怜旺の耳が熱くなってくる。
「てめっ、昨夜散々ヤっただろうが! もう無理だって」
「あー、じゃぁヤんなくていいから、咥えろよ」
「な……ッ」
冷たい言葉と同時に上から頭を押さえつけられ力づくでコンクリートの床に膝をつかされる。
圭斗の力は思いの外強く、身長差も手伝ってか怜旺が抵抗してもびくともしない。
「てめッふざけんなっ! 何のつもりだ!」
「なにってナニだろ? アンタがヤりたくねぇっつーから口で我慢してやるって言ってんだ。好きだろうが、咥えんの」
「ふざけんな! 好きなんかじゃ……ッ」
どうしてそんな事を言うんだろう。ようやく、好きだってお互いの気持ちが伝わったと思ったのに。
『どうせお前の事なんか誰も愛してはくれない。お前の価値はその顔と、身体だけだ――』
唐突に父親に言われた言葉を思い出した。
やっぱり、圭斗も身体だけが目的で、本当の意味で自分を好いていてくれたわけでは無いのだろうか。
一気に押し寄せてくる不安感は思考をどんどん悪い方へと引き寄せていく。
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