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疑惑10

胸が抉られたみたいに痛い。 自分でもよくわからない感情が込み上げて来て、目にじわりと熱いものが競り上がって来る。必死に堪えて、それでも堪えきれなさそうで鼻の奥がツンと痛くて、目の前が歪んだ。 「おい、どうし……」 グッと顎を掴まれ、顔を上向かされそうになり、慌てて顔を背けた。こんな顔を見られるなんて冗談じゃない。 「……何も泣く事ねぇだろ」 「うるさいっ!  泣いてなんかねぇ! こっち見んなバカ!!」 「……」 数秒の沈黙のあと、圭斗の身体がゆっくりと離れて行った。息を吐いて呼吸を整えた後、そっと優しく抱きしめられた。 「悪い……。別にアンタを泣かせたいわけじゃなかったんだ。ただ、アンタの口から違う男の話が出るのが嫌だったんだ。どんだけ心狭いんだよって話だよな」 ごめん、と頭を優しく撫でられ、そっと髪をかき上げられた。圭斗の手の平からじんわりと彼の体温が伝わってくる。 全く、とんでもなく独占欲の強い男だ。けれど、心のどこかでそれを嬉しく思って、ホッとしてしまっている自分が居たりする。 「いやだ。許さねぇ」 ピタリと圭斗の手の動きが止まった。頭を撫でていた手が下りて来て、そっと怜旺の頬を撫でた。 「悪かったって」 「許さねぇって言ってるだろ」 圭斗が顔を寄せて来るから、怜旺は背けて唇を避けた。 「もうしねぇってば」 「許さねぇよ。ぜったい」 本気で言っているわけではない。圭斗もそれはわかっているのだろう。何度かそんなやり取りを繰り返しているうちに、辺り一面が甘い空気で満ちていく。 どちらからともなく顔が近付いていき、鼻先が触れる距離になった所で怜旺の方からゆっくりと目を閉じた。

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