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疑惑11
「何拗ねてるんだ」
「拗ねてねぇ! 怒ってんだ馬鹿! い、嫌だつーのにあんなキス……」
ニヤニヤと笑いながら隣を歩く圭斗を、恨めしそうな瞳で見上げる。くだらない独占欲に振り回され、雰囲気に呑まれてうっかり流されてしまった自分が恨めしい。
キスだけで腰砕けになり、回復するまで屋上に留まることを余儀なくさせられたのだ。
股の間に無理やり座らされ抱きしめられて、抵抗するも敵うわけもなく、何度も何度も唇を貪られた。当然、それだけで終われるはずもなく――……。
甘い雰囲気はやっぱり苦手だ。圭斗の変わり具合を目の当たりにした後では、今まで気付かなかった色々なものが目について、遣り切れない。
圭斗の言動に振り回され、過去のトラウマを刺激され、感情をかき乱されるのが堪らなく嫌だったはずなのにキス一つで許せてしまう自分の単純さにも腹が立つ。
「嫌って割には随分気持ち良さそうに見えたけどな。まぁ、泣き顔も中々……」
「だから! 泣いてないって言ってんだろうがっ! ちょっと目にゴミが入っただけで」
「ハイハイ。そう言う事にしておいてやるよ」
頭をくしゃくしゃと撫でられて、むっとして手を払いのけた。
「あーもう、とにかく屋上でヤんのは禁止だからな! 次あんなことしたらシバくぞ」
「はいはい。じゃあ今度はアンタの家でな」
「しねぇよ!!」
そんなやり取りをしながら、教室に差し掛かると何やらいつも以上に騒がしい。何かあったんだろうか? 不思議に思って圭斗を見上げると、彼もまた同じ事を思っていたらしく、不思議そうに首を傾げながら教室内に入る。
「あ! 圭ちゃん!」
真っ先に圭斗に気付いた央が、神妙な顔つきでこちらに近づいて来た。そして、その後を追うようにクラスメイト達の視線一斉に二人に向いて、教室内は一瞬にして静まり返った。
「圭ちゃんって呼ぶなつっただろうが」
「ご、ごめん」
「それより、上城。これは何の騒ぎなんだ?」
眉間に皺を寄せた圭斗に代わって尋ねる。
「そ、それが……」
「理科室から戻ってきたら波多野君が持ってたiPodが無くなったって言ってて」
会話に割って入って来たのは麗華だった。困ったように眉を寄せどうしたらいいかと不安げな表情をこちらに向けて来る。
ふと、先ほど見た都築の姿が脳裏をよぎった。あれは、あの時都築が探していたのは財布では無くもしかして――?
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