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空回り
圭斗の事は気になるが、彼を巻き込まずに済むのならそれに越したことはない。
怜旺は、大きく息を吸い込むとゆっくりと吐き出した。
iPod紛失事件から数日。表向きは以前と変わらない日常が戻って来た。 生徒達は波多野に気を遣っているのか、誰も犯人は誰だったのか、あの場に誰が居合わせ何があったのか聞いて来ることは無く表向きは平穏と言えなくもない。
波多野には、圭斗が犯人ではないと言う事、事実関係をきちんと調べると言う事で渋々納得してもらっている。
一番問題である都築は取り敢えず、何も伝えず泳がせてみることにした。
とはいえ、亮雅が裏切りにも似た対応をしたのが気に入らなかったのか、事件以降接触してくる事は無いが、何やらコソコソと動き回っている様子は見て取れる。
なにを企んでいるのかはわからないが、向こうもこちらを警戒し始めたのが伝わったのだろうか? 以前のようにベタベタとつき纏ってくることもなくなり、表面化で腹の探り合いが繰り広げられる現状に、怜旺は心の内で苦い笑みを浮かべながらも、普段通りの日常を演じ続けていた。
今一番気がかりなのは、圭斗の事だ。
怜旺が突き放したような態度を取ったのがよほど気に入らなかったのだろうか? あの日以来、学校には来ていないようだった。
いつもなら、教室に居なくても校内のどこかしらにはいるのだが、今回はそれすらもない。
いっそ連絡をしてみようか? でも、なんて?
だいたい、あの位で学校に来なくなるなんて構って欲しくて我儘を言う小さな子供みたいじゃないか。
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