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絶望 6
都築だ!
確信をもって睨み付ける。だが、彼は怯むどころかいつもの怯えたような眼では無く、冷たい目をして怜旺をジッと見据えていた。
「……ねぇ先生、恋愛ゴッコは楽しかった?」
そう言って都築は楽しそうに笑いながら、身動きの取れない怜旺が左手に持っていたブレスレットを強引に奪うと、横に居た男からナイフを預り、怜旺の目の前で傷を付け始めた。
「んっ、く……っ!! んん!!!!」
それを離せ! 返せ! 叫びたいが言葉にならない。
どれだけ暴れても男たちの手は緩まず、更に強い力で身体を捻じ伏せて身動きを封じてしまう。
「こんな子供だましの玩具貰ってさ、喜んでたの? 先生って案外可愛いとこあるんだねぇ」
冷たく嘲笑いながら怜旺に見せ付けるようにしてブレスレットのゴムに刃を当てては、傷を付けて行く。
自分の大切にしていた思い出が、音を立てて崩れ去っていく音がする。確かにさっき一度は捨てようと思っていた。
でも、本当に捨てたかったわけじゃない。銀色に光るナイフによってオペロンのゴムが徐々に裂け、石が弾け飛んでいく。
「う、ぅう……!! く……っ」
なんで、どうして……こんな事を……。
たとえ一瞬でも圭斗に愛された思い出だから……。
彼から初めてもらったものだから。それなのに……。
狭い車内にバラバラと散らばる石を見て、怜旺は直視出来ずに苦しそうに表情を歪ませた。
「あれ? もしかして泣いちゃった? そっかそっかー。泣くほどアイツの事が好きだったんだ?」
グイッと顎を持ち上げられ、卑下た笑みを浮かべた都築の顔が視界いっぱいに広がる。
「アイツも馬鹿だよねぇ。先生にこんなに大事に思われてるのに、簡単に僕の雇った女に引っ掛かるんだもん」
都築はペロリとナイフを舐めると、怜旺と視線を合わせたまま雨で張り付いたシャツのボタンを一つ弾き飛ばした。
プッと言う微かな音と感触に、不快感が込み上げて来る。
「なんか、僕の周りうろちょろして嗅ぎ回ってたみたいだから、椎堂君の事好きだって公言してた女に手伝って貰ったんだ。嘘の情報に踊らされて、今頃は彼女とよろしくやってんじゃないの? アイツ、バカだし下半身で生きてるようなもんでしょ」
冷たい笑みを浮かべながら残る怜旺のシャツのボタンをゆっくりと外して行く。
そうか、さっきのアレはコイツが仕組んだ事だったのか。
自分が突き放したから、圭斗は自分一人で何とかしようと情報を集めようとしてくれていたんだ。それを逆手に取られて上手く利用されただけで、自分の事が嫌になって、女と遊んでいたわけではなかった。
それがわかっただけでも、随分と心の在り方が変わって来る。
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