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絶望 8

「オイ都築。そろそろいいだろ? オレも堪んねぇって」 「んー、じゃぁ口でシてもらえば? 得意なんだって。ねぇ? 先生」 「……」 何も答えず、怜旺は目の前の男と都築を睨み付けた。だいたい、都築は何処でそんな情報を手に入れたのだろうか。一瞬亮雅の顔が浮かんだ。可能性は無いとは言えない。 「ハハッそりゃいい。じゃ、フェラは動画で撮ろうぜ」 勝手な事を愉しそうに言う男に、身震いするほどの嫌悪を覚えた。コイツは人を何だと思っているのか。 口ピアスの男は怜旺をけん制してナイフを構えたまま、自分の男根を取り出す。既に半勃ち状態のソレは充分に威圧的なサイズ感だ。 「絶対に歯は立てんなよ。んなことしたらてめぇの喉かっ切ってやるからな」 ナイフをピタピタと額に押し当てられ、諦めにも似た溜息が洩れる。 猿轡が外され、喋れるようにはなったが、未だに拘束する男の手は緩む気配もないし、自由を奪われたままでは分が悪すぎる。 「……都築。てめぇ、こんな事して楽しいのか?」 色々と言ってやりたい事は多々あるが騒ぎたてるだけ無駄だと思い、出来るだけ平静を装って尋ねる。 「へぇ、随分冷静なんだ? もっと取り乱すか罵倒するかと思ったのに……」 「どうせ何言ったってヤんだろ? だったらその前に聞かせてくれたって罰はあたんねぇだろうが」 何とか相手に隙を作って、後ろの男を倒したい。 1分……いや、30秒もあれば都築ともう一人くらいは倒せるはずだ。 「なに企んでるのか知らないけど……。いいよ、少しだけ付き合ってあげる」 「おい、都築」 「少しくらいなら大丈夫でしょ? こんな体勢じゃどうせ何も出来やしない」 都築は小馬鹿にしたように鼻で笑うと、ポケットの中から煙草を取り出して火を点けた。 「で? 何? こんな事して楽しいか、だっけ? んー、楽しいと言えば楽しいかな。だって先生って、あの小さき百獣の王なんでしょ? たった数カ月でこの辺の不良たち全部一掃しちゃったって伝説持ってる。そんなすげぇ人をこれから組み敷くのかと思ったらゾクゾクしちゃうよ」 ふぅ……と煙を吐き出しながら都築はニヤリと微笑んだ。 「チッ、悪趣味だな」 「話はそれだけ? 時間稼ごうとしても無駄だよ。先生 どうせ誰も助けになんか来ないんだから。ほら、どっちのから舐める? 先生の好きなのからでいいよ」 ずいっと目前に2本のペニスが接近した。狭い車内に濃厚なオスの匂いが充満して、鼻の奥にツンとくる。 「……っ」 「ほら、早くしゃぶってよ」 頬にぐいっとソレを押し付けられ、更に濃厚な匂いが香る。むわりと熱気さえ感じられて、それがこの異常さを実感させた。 どれもこれもない。どっちも嫌に決まっている。 だが、都築が言うように圭斗の助けは期待できない。だって、今頃圭斗は何も知らずに、あの女と……。 そう思ったら、胸に苦いものが込み上げて来て自虐的な気持ちになった。 なにをいまさら躊躇っているんだ。今までだって何度もやって来たことだろう。都築が自分をあっさり解放するとは思えないが、拒否権なんて最初から無いのだ。 目を瞑って、言われたとうりに咥えればいい。何も考えず、無心になるんだ。 そう何度も自分に言い聞かせ、半ばやけくそになりながら目前に迫る都築の男根に唇を寄せる。半分ほど芯を持ったそれがピクリと動いて、おぞましさに吐き気が込み上げて来た。 もう何度もしている行為の筈なのに、それが圭斗の匂いじゃないという事実が耐えられない。

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