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絶望 9

都築が頭上でにやにやと笑いながらスマホを構える。 「いいよ、そのままパクっとしちゃってよ先生」 頭を撫でられて、反射的に勢いよくその手を避けた。都築の手に恐ろしいほどの嫌悪感を覚え、触れられた部分から腐って行くような感覚に囚われる。 違う! 怜旺を撫でる圭斗の手はもっと優しい。もっと温かいし。こんなケダモノみたいな臭いじゃない……っ! 自分に触れていいのは、アイツだけだ――っ! そう思った瞬間、プツンと頭の中で何かが音を立てて切れた気がした。 「俺に触るな……ッ!」 自分でも驚く程ドスの利いた声だった。都築は驚いたように固まったが、すぐに顔に下品な嘲笑を張り付けると「え? なに? いきなりどうしたの?」そう言って怜旺の髪を掴むと、力任せに頭を引き上げさせた。だが、怜旺の意思は変わらない。鋭く都築を睨み返した。 その時、口ピアスの男が持っていた怜旺のスマホの着信メロディが、緊迫した空気を引き裂いた。怜旺の目が大きく見開かれる。 「ん? お、『圭斗』だって。これ、都築が言ってたヤツじゃね?」 発信者の名前を見た、男が愉快そうに笑いながらスマホの画面をチラつかせる。 「椎堂……っ」 もしかして、あのメッセージを見て連絡して来たのかもしれない。そう思ったら急に力が漲って来るような気がした。 「電話で聞かせてやろっか、アンタがアンアン善がってる声……ぅ、ぐっ」 へらへらと笑い油断していた男の脛を思いっきり蹴り飛ばし、全身を使って拘束していた男の腕を振り切った。夢中でスマホをひったくり通話ボタンを押す。 「けい……っ、んん!」 都築が慌てて怜旺の口をタオルで塞ごうとする。負けて堪るかと、抵抗していると直ぐにもう一人に取り押さえられた。 「チッ、暴れやがって、おい車出せ!」 屈強な男が命じると口ピアスの男が慌ててドアを開け、運転席へと向かう。  外に出るチャンスは今しかない。こんな所で、こんな形で連れ去られて堪るか。全身を使って馬乗りになっている男から逃れようと身をよじる。 すると――。

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