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光明
「ぎゃ……ッ!」
ドアの外でドサリと鈍い音がして、驚いた男が怜旺を拘束している腕を離した。 咄嗟に車外に視線を向ける。
降りしきる雨の中、外套を背にして浮かび上がる黒いシルエット。金色の長い髪がライトに反射して眩く光って見えた。
その足元には、車外に飛び出したさっきの男が身体を丸めて呻いている。
「……圭、斗……?」
自分は都合のいい夢でも見ているのだろうか?
いや、今はそんな事どうでもいい。拘束が解かれた怜旺は仲間がやられて頭に血が上り今にも車外に飛び出して行きそうな男の腹に渾身の力を込めてパンチを一発めり込ませた。
「ぐ、は……っ」
男が白目を剥いて身体を折り曲げる。その隙に転がるようにして車外に飛び出すと、こちらに気付いた圭斗と目が合った。
「ッ、怜旺……っ!」
圭斗は容赦なく蹲る男の腹を踏みつけて直ぐには逃走できないよう地面に縫いとめていた足を離し、強い力で怜旺の腕を引いて、そのまま抱き締めた。
甘い熱が怜旺を包み込む。力強い腕に閉じ込められて、来てくれたんだという実感がようやく沸いた。
圭斗は怜旺の乱れた服を見てぎりっと音がするほど唇を噛みしめ、車内へと鋭い視線を投げかける。
「……テメェが差し向けたクソ女が全部ゲロったぞ」
「ひっ、ご、ごめんなさ……ほんの出来心だったんです……僕は何も……ひぃっ!」
真っ青になってガクガクと震える都築は自分も同じような目に遭うとでも思ったのか、先程の威勢は消え失せ怯えたように両手を胸の前で交差させ、身を縮こまらせる。
都築は弱い自分を演じる事に関しては天下一品なんだなと。他人事のように思いながら、圭斗の温かい胸の中に身を預けた。
裏切られたわけじゃなく、自分が勝手に不安になっていただけ。圭斗はこんなにも自分を思ってくれていた。それがたまらなく嬉しかった。
体で感じる圭斗の速い鼓動が、同じ気持ちでいてくれたらとそんな都合のいい事を考えた。思わず圭斗を仰ぎ見ると、彼も怜旺を見つめている。
「悪い、遅くなった」
「……遅すぎだ、ばか」
悪態をついてぎゅうっと圭斗の上着にしがみついた。雨で冷えていた身体に、じんわりとした体温が伝わってくる。
「……ッ!」
圭斗は都築を一睨みすると、無言で車から離れた。都築は腰を抜かしたまま車内にへたり込んでいる。
怜旺を抱く腕が一瞬だけギュッと強くなる。圭斗は都築を一瞥し、低い声で言った。
「……てめぇだけは、絶対に許さねぇから。絶対にぶっ潰してやる覚悟しとけ!」
すっかり怯えたまま動けない都築に背を向け、圭斗は強引に怜旺の肩を抱いたままその場を立ち去った。
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