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決意 6

「そっか。なんで小さき百獣の王が、地味なカッコして教師なんてやってんだ? って思ったけど、そう言う事かよ。 じゃぁ、その怜司って男に感謝しないと、だな」 「あ? 何言って……」 「だって、アンタがソイツから逃げて、一般人に紛れることを選んでなけりゃ、俺はアンタと会う事は無かったはずだろ?」 「……」 怜旺は目を瞬かせると、少しの沈黙の後「そうだな」と小さく呟き、困ったように眉を下げた。 「ばっかじゃねぇの」 「は? な、なんだよいきなり」 唐突な罵倒に、圭斗が不満そうに唇を尖らせる。その表情がなんだかおかしくて、怜旺は肩を竦めながら圭斗の頭をくしゃりと撫でた。 「どんだけポジティブなんだよお前。ほんっと、馬鹿」 「なっ、てめっ……馬鹿馬鹿ってさっきから! 馬鹿って言う方が馬鹿なんだからな!」 ぶすっとした表情をして、子供のような事を言う圭斗が可笑しくて思わず吹き出すと、圭斗もそれにつられて笑った。 「はぁ……、なんかもう色々面倒臭くなっちまったな。気が抜けたっつーか」 ひとしきり笑い合い、怜旺は柔らかな表情のままそっと圭斗の頬に手を添えた。 「ほんと、馬鹿だよお前」 「なっ……」 「でも、そんなお前に惚れた俺も、相当な馬鹿なんだろうな」 文句を言おうとした唇をゆっくりと塞ぐと、一瞬驚いた表情をした圭斗がすぐ嬉しそうに目を細める。触れ合わせるだけの口付けを数回交わしてから、ゆっくりと唇を離すと二人の間に銀糸が引かれた。 「やっぱ教師が向いてねぇんじゃねぇの? アンタ」 クスっと笑いながら言われ、怜旺は圭斗の頭を軽く小突いた。そして、ゆっくりとその身体を押し倒し、馬乗りになる。

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