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不穏の足音 2

『なんだ、まさか俺の事を忘れたとか言うなよ? 俺は、この10年ずっとお前を探し続けていたというのに』 「なに……?」 脳裏に、昨日圭斗と話していたあの男の顔が浮かんだ。まさか、圭斗の家を特定し、押し入ったのだろうか。もしそうだとしたら、圭斗は? 無事なのだろうか。 不穏な予感が胸を過り、呼吸が苦しくなり、手の平にじっとりと汗が滲んで来る。 「……圭斗は何処だ?」 なんとか感情を押し殺し、冷静さを装いながらも僅かに震える声でそう問うと、受話器の向こうで男が微かに笑う気配がした。一体何が可笑しいのか、一々勘に障る男だ。 『まだ無事だ。玄関の扉が開いていたので正面から入らせて貰ったよ。キミの相棒にしては随分と不用心な男のようだ』 「ぐ……」 強く噛みしめた唇の奥から、抑えきれない呻きが洩れる。 今朝、家を出る時鍵を掛けて行かなかったのは自分だ。こんな事なら、少々強引にでも叩き起こして一緒に家を出てくればよかった。 まだ。と、言う事はこれから何か危害を加える可能性があると言う事だろうか。 「……何のつもりだ。何故圭斗を狙う?」 極力感情を抑えてはいるものの、震える声色は誤魔化しきれない。手の中のスマホが怜旺の怒りで、小さく軋んだ音を立てる。 『君と少し取引をしたくてね。 今から日没までに新港の埠頭にある倉庫へ来い。約束を違えたり、警察に話したりしたらこのガキの安全は保障できない』 「……何が取引だ……。姑息な真似しやがって……」 『何とでも言って貰って結構。相棒を見捨てるつもりでも俺は構わないさ。では、また後で。待っているぞ、小さき百獣の王』 「ま、待てっ! お前……っ!」 電話は、止める間もなく、一方的に切られてしまった。 不通音の鳴るスマホを強く握りしめたまま、怜旺は苦虫を嚙み潰したような顔でしばらく立ち尽くしていた。

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