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不穏の足音 3

日没まではまだ4時間ほどある。だが、移動の時間も考えれば悠長な事は言っていられない。 「……クソッ」 怜旺は舌打ちと共に悪態を吐き捨てて、握り締めた拳で壁を強く叩いた。 みしりと嫌な音がして、唇を強く噛みしめる。 「あれ? 獅子谷先生。今日は一段とご機嫌斜めみたいですねぇ」 「ぁあ?」 振り返ると、そこには昼休憩を終えたばかりであろう鷲野が、パートナーの増田と共ににこにこといつもの愛想の良い笑みを浮かべて立っていた。 その能天気な顔に苛立ちを覚え、思わず顔を顰める。 「っと、駄目ですって、人でも殺しちゃいそうな顔してますよ」 「お、おい和樹……っ」 怜旺のピリッとした空気が読めないのか天然なのか、思った事を口にする鷲野を、流石にまずいと思ったのか増田が慌てて止めに入る。だが、もう遅かった。 怜旺はギロリと鷲野を鋭い視線で睨み付けたが、今にも爆発してしまいそうな感情を無理やりに抑えつけて、拳を強く握りしめたままギリギリと奥歯を嚙み締めた。 落ち着け……冷静になれ。ここで取り乱してどうする? 怒りをぶつけるべき相手はこの二人ではない。今は、それよりも一刻も早く圭斗のもとへ行かなくてはならないのだ。 「……っ、すみません」 ようやく絞り出した声で謝罪の言葉を口にし、ふと先日鷲野に言われた言葉を思い出して、バッと顔を上げる。 「鷲野先生。この間、自分に出来ることがあれば何でも言ってくださいって言いましたよね?」 「えっ? あ、あぁ、そ、そうですね」 「じゃぁ、午後からの授業。頼みます!」 「あー、はいはい。わかりました午後からの……って、え? ぇえっ!? ちょ、獅子谷先生!?」 鷲野が何か言っているのが聞こえたが、怜旺は構わず、スマホを握りしめたまま校舎を飛び出した。

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