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襲撃 2

「ち、畜生……。おい、てめぇら! やっちま……」 「……黙れ」 仲間をやられて血が上った男がナイフを振り回して怜旺に襲い掛かる。だが、地を這うような低い声と共に、胸倉を掴んで頭突きを喰らわされ、男は声も無く崩れ落ちた。怜旺はナイフを遠くへ蹴り飛ばし、遠慮のない力で蹲った男の腹を蹴りつける。 「ぐぁあ!」 「口ほどにもねぇ奴ばかりだな。ただ、デカイだけの木偶の棒ばっかか? ぁあ?」 怜旺が放った強烈な蹴りの衝撃でのたうち回る男は睥睨し、ドスの利いた声を響かせると、呻き声を上げていた男達は皆一様にビクリと体を竦ませた。 「かかって来いよ。全員ぶっ潰してやる」 「……ッくそっ! 怯むな! 伝説の男かなんか知らんが、こんなチビの優男に負け「だから、チビチビうっせぇつってんだよ、クソが」」 頭を鷲づかみにし、壁に力いっぱい叩き付ける。と、男は脳震盪を起こして白目を剥いて、完全に沈黙した。 「おいおい、センセ冗談キツイって。一人で全員瞬殺しちまいそうな勢いじゃねぇか」 「るせぇな。俺は今、最高に機嫌が悪いんだよ。余計な事言ってないで、お前は都築を……」 「わぁってる」 八神と背中合わせになり、次々と襲い掛かってくる敵をなぎ倒していく。チラリと奥に居る都築に目をやれば怖気づいたのかさっきまでの威勢はどこへやら、腰を抜かして床を這いずり逃げようとしている。 「……なぁ、八神はなんであんなのがいいんだ?」 「は!? あー……。なんつーか、今でこそ人が変わっちまったようになってるけど、本当は、ビビりでヘタレで、気も小さい奴なんっすよ。暗いし、すぐ泣いて、びーびーうるせぇし……でもさ、すっげぇ真面目で一生懸命で優しい所もあって……だから、ほっとけねぇっつーか……」 八神に蹴り飛ばされた男が勢いよく壁に激突して、ズルズルと崩れ落ちる。 「だからさ、アイツをあんな風に唆したヤツが許せねぇし、すぐ側にいたのに気付いてやれなかった。止められなかった自分が許せないんだ。……多分だけど、引っ込みつかなくなってるだけだと思うから、アイツを救ってやりたいんだ」 「八神……。お前、案外いい男だったんだな」 「案外ってなんだよ。酷くね? センセ」 「褒めてんだよ」 八神は拗ねたように唇を尖らせたが、満更でもなさそうに笑みを零した。

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