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エピローグ

「昨日はすみませんでした!!」 翌朝、登校するなり怜旺は鷲野の元へ向かい、勢い良く頭を下げた。 いくら慌てていたとはいえ、鷲野には無茶ぶりし過ぎた。流石にいつもへらへら笑っている鷲野も怒っているかもしれない。 「ホントですよ。いきなり授業は任せる! だもんなぁ。何の準備もしてないし、そもそも俺、教科違うし……大変だったんですよ?」 「いや……その……。なんと詫びていいのか……」 恐る恐る顔を上げると、鷲野は腕を組みながら呆れたように苦笑している。どうやらそこまで怒ってはいない、……らしい? 「なぁんてね。 まぁ、びっくりはしましたけど、きっと獅子谷先生にも何か事情があったんだろうし? 今回は大目に見てあげてもいいです」 「え……。そ、それじゃあ……」 「その代わり、今度付き合って下さいね? ナオミさんが、獅子谷先生に会いたーい♡って、うるさいんで」 「お、おう」 ナオミと言うのは、鷲野達行きつけのバーのママだ。骨格や顔立ちは明らかに男なのに、派手な服を着て、野太いキンキン声の女言葉で話す彼は、何とも強烈な見た目をしていたのを思い出す。 正直言って苦手なタイプの人間ではある。 怜旺は頬が引き攣りそうになるのを必死に堪えながら、精いっぱいの笑顔を浮かべて首を縦に振った。 「約束ですからね? あ、あぁ、そう言えば今日、都築君はお休みだそうです。 あの子、意外と元気な印象だったんですが、風邪ですかね?」 「そう、ですか……」 もしかしたら都築は責任を感じて亮雅の所へ向かったのかもしれない。 だが、学生と言う立場があるのだ。 入院中ずっとサボって側にいるつもりではないだろうが、あまり褒められた話では無い。  「じゃぁ俺、朝一で授業なんでこれで」 鷲野を見送り、怜旺はひっそりと溜息を一つ。今日、学校が終わったら取り敢えず亮雅の所へ行ってみようか。 全く、世話の焼ける奴だと溜息を一つ吐いて、怜旺もHRの準備をする為に職員室を後にする。 すると、 「なぁに辛気臭い顔してんだよ」 「!」 突然声を掛けられ、驚いて顔を上げる。そこには、今朝随分早くに家を出たはずの圭斗が、ひらひらと手を振りながら立っていた。 だが、肩に付きそうになっていた髪は、ツーブロックに刈り上げられていて、かなり短くなってしまっており思わず目を見張る。 朝までは、いつもの圭斗だったのに……。 何か言わなければと思うのに、衝撃が大きすぎて声が出ない。

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