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第18話 屈辱的な快楽※
「……ぁッ、んっ……」
だが、怯えて震えるトアの身に降りかかってきたのは、痛みではなかった。
唇をキスで封じられ、ヴァルフィリスの舌が無遠慮に挿入される。口を閉じることを禁ずるように顎を掴まれ、柔らかな口内を掻き乱される。
「んっ……んゔっ……んんっ……」
頬の裏や上顎の裏をねっとりと舐めくすぐられ、舌先で歯列を辿られ、唇ごと覆われて、息を吐く暇も与えてもらえない。喘ぐように呼吸をするたび、大きく上下するトアの胸にも、ヴァルフィリスの手が触れた。
——まさか、吸血じゃなくて、陵辱が始まるのか……!?
陵辱の果てに吸血され、殺されてしまうのか。……だが、ふと思い出す。この状況こそが、『生贄の少年花嫁』の主題ではないかと。
トアの挙動がおかしかったせいで状況が変化していたのかもしれないけれど、このままきっと、元々の展開に戻っていくに違いない。
いっときは、『どうして血を吸ってもらえないのか』と少し思い悩んだこともあった。その時の落胆が嘘のように、今はただヴァルフィリスが恐ろしかった。
だが、このまま襲われて終わりたくはない。元々の主人公である『トア』のように、戦って、抵抗して、これまでに殺された子どもたちのためにも一矢を報いたい。
トアは身を捩りながら顔を背け、ヴァルフィリスのキスから遮二無二逃れた。すると、視界を封じるタイの向こうで、ヴァルフィリスが低く笑う声が聞こえてくる。
「……へぇ、抵抗するのか? いつもされるがままのくせに」
「う……うるさい! 今度僕にキスしたら、その舌を噛み切ってやるからな!!」
「ふふっ……くくく」
威勢よく大声で言い放つと、ヴァルフィリスのさも可笑しげな含み笑いが聞こえてきた。すると、歯を食いしばって精一杯身を固くするトアの脇腹に、すり……と淡く指が這う感触が走る。
「っ……ん」
「いいね、お前は本当におもしろい」
「うるさい、うるさ……っ、ァっ……」
ちゅぷ……と不意打ちのように胸の尖りに滑ったものが触れ、トアはびくん! と肌を震わせた。ここへきてからすっかり鋭敏な性感帯にされてしまった乳首を、ねっとりと舐められている。
その上、もう片方の花芯もまた指で捏ねられ、爪の先で引っ掻かれ、そのたびにじくじくと股ぐらにむずがゆいような快楽が集まってゆく。
こんな時だというのに、すっかりヴァルフィリスの愛撫に慣れさせられてしまった肉体が心底憎たらしく、トアは必死で声を殺した。
「は、ぁっ……ん、やめろっ……! やめっ……ァっ」
舐められ、弄られるたびに跳ねて揺れてしまう腰が恥ずかしい。するとヴァルフィリスはトアの脇腹を淡く撫で下ろしながら、鳩尾からへそへ向かって舌を滑らせていった。
恐ろしくて憎い相手なのに、触れられた場所から生まれるのはまぎれもない快楽で、屈辱のあまり涙が出そうだ。
「んっ……んぅ……はなせよぉ……っ」
「……本気で言ってるのか? ココをこんなにしておいて」
「あっ……!!」
布越しにぐっと握り締められているのは、トアの昂った性器だ。濡れた感触がすでにあるという事実に羞恥心を煽られて、トアは下唇を噛み締める。
だが、ヴァルフィリスは愛撫の手を止めない。
濡れた布ごとぐにぐにとトアのペニスを揉みしだき、喉の奥で低く笑っている。
「ん、はァ……っ、ぁ、んっ……ん」
「いい声だな。……気持ちよさそうじゃないか」
「ばかやろうっ……!! きもちよく、なんか……っ」
「そんなに意地を張ることはないだろ」
そのまま下履きを全て抜き取られてしまい、濡れそぼったそれがひんやりとした外気に触れる。視界は覆われているけれど、今まさにヴァルフィリスの眼前に、トアの昂らされてしまった恥ずかしい肉体が晒されている。
屈辱と羞恥。だが、与えられているものは、痛みどころか耐え難いほどの快楽で、トアの理性は混乱した。
「ぁ、んっ……ん、……やめろよっ」
濡れた鈴口をぐにぐにと弄られたかと思えば、体液を塗り広げるように全体をゆっくりと扱かれて、トアの口からは甘い声が溢れてしまう。
上下にくちくちと扱かれるたびに濡れた音が耳に届いて、トアは恥ずかしさのあまり泣きたくなった。
「やめ……ァっ……ん、はぁ……っ」
「こんなに固くして、こんなに溢れさせておいて……まだ意地を張るのか?」
「言うなっ……そんな、こと……っ」
「ふふ、いじらしいな。……じゃあ、こうしよう」
ヴァルフィリスの上半身が覆い被さってくる気配を感じた次の瞬間、再び敏感な胸に甘い刺激が降りそそぐ。しかも、下もぐちぐちと荒々しく扱かれ続けられていて……。
「ぁん、っ……やめ……っ! ァっ……はぁ、ぁ、や……ァ、んっ」
「……出してもいいんだぞ。ほら、どんどん硬くなる」
「や、やっ……ださないっ……きもちよく、なんか……っ」
「強情だな、自分から腰を振っておいて。いやらしい」
トアを嘲るような口ぶりで責め続けるヴァルフィリスの声音にも、徐々に熱がこもり始めているのがわかる。時折トアの耳に届く吐息は色っぽく、口調ほどの余裕はないように思えた。
——だめだ、もう……出ちゃいそ……っ。イかされたくないのに、こんなやつに……っ!
意地になりたい気持ちはあるけれど、トアの肉体はとっくに快楽に負けている。
ヴァルフィリスの愛撫に合わせて腰を上下に揺らしながら、トアはとうとううわごとのように嬌声を漏らした。
「ぁんっ……も、やめ……いっちゃう、いっちゃうから……っ」
「もう? もっと堪え性があると思っていたのに」
「だって、こんなの……きもちいい……きもちいいから……っ!」
破裂しそうなほどに昂った射精感に負けて、トアはとうとう涙声でそう叫んだ。
すると、熱く濡れたもので下唇を啄まれ、興奮の滲む吐息と共にヴァルフィリスが囁いた。
「……口を開けろ」
「ん、んん……っ」
「噛みたければ噛めばいい。……できるものならな」
「ん、あっ……ぅ」
唇と唇が深く触れ合い、熱く蕩けた粘膜が擦れ合う。
最初とは比べ物にならないほど心地の良いキスが、トアの理性をとうとう壊した。
抵抗示すために威勢のいいことを言い放っていたくせに、トアの唇は呆気なく敗北してしまっている。自ら舌を伸ばしてヴァルフィリスのそれに絡めながら、身を溶かすような快楽に腰を捩らせることしかできないでいた。
「ん、っぁ……ぁふ……っ」
「……はぁ……トア」
キスの隙間で、感極まったような声音で小さく名前を囁かれた瞬間、腹の奥で何かが弾けた。
「ぁ、ぁ……っんんん——っ……!」
ヴァルフィリスの手のひらの中で、びゅくびゅくと白濁を迸らせる。
びく、びく! と汗で濡れた肌を震わせながら吐精するトアを抱きしめるヴァルフィリスは、トアの吐息をも飲みこむかのように深いキスをやめなかった。
——あ、ああ……なにこれ、身体、ふわふわして……きもちいいの、とまんない……
酩酊状態にも似た浮遊感とともに、これ以上ないというほどの快楽に全身がとろけ、トアの両目からは涙が溢れた。
身を捩るうちに目隠しがほどけ、トアは眩しさに目を細める。
すぐそばにあるのは、ひりつくような深い赤を湛えた美しい双眸。
その両の目に自分と同じ欲望を感じ取ったような気がして、トアの頬にふたたび一筋の涙が伝う。
「ん……はぁ……はぁ……っ、ヴァル……」
「……もう、やめてほしいか?」
トアに逃げ道を与えるかのようなヴァルフィリスの問いに、トアは迷わず首を振っていた。
「や……やめたくない」
「いいんだな、本当に」
凄むように細められた赤い瞳を陶然と見上げながら、トアは小刻みに頷いた。
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