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30 陰キャだから

「幸人はさ、言いたいこと、すぐ飲み込む癖あるよな」  ベッドに座った二人は、寒いのにエアコンもつけていなかったことに気付く。輝彦にごめんと謝られ、慌ててエアコンをつけてもらった。アウターを脱ぎ再びベッドの端に座ると、腰を強く引き寄せられ、距離の近さにドキドキする。 「そ、かな……あまり自覚ないんだけど……」 「うん。遊園地でも俺促したけど、結局話してくれなかったし」  今も、と髪を梳かれ、幸人はくすぐったくて肩を竦めた。すると輝彦は幸人の反応に驚いたかのように手を止め、引っ込める。 「だって遊園地じゃ、せっかくの楽しい雰囲気が台無しになると思ったし……」 「話せって言ったの俺だから、別にいいのに」  輝彦の口調に幸人を責めるようなニュアンスは一切ない。お前のためだから糸が見えることは一切喋るな、と強い口調で言った祥孝を思い出し、ずっと思い込もうとしていた祥孝像との乖離を、幸人はこの時初めて受け入れることができた。 (二人の、秘密だったんだよなあ……)  それなのに祥孝から幸人の能力を利用し、祥孝がチヤホヤされるのを黙って見るしかなかった。恋愛相談が得意だと言った彼。実際は幸人が答えていたのに、黙っていろと言ったのはそのためだったのか、とショックだった。けれど、沢山のひとに囲まれている祥孝は嬉しそうで、おかげで幸人も孤立しなくなったからいいと思っていた。 「幸人」  呼ばれて、また自分が考えに耽っていたことに気付く。 「ごめん、色々考えてた。その……何から話したらいいのか……」 「うん。ゆっくりでいいよ」  そう言った輝彦の糸は、幸人と結ばれていながらも幸人の手首をグルグル巻いている。本当にキラキラした外見からは想像できないほど、束縛気質なんだな、と笑ってしまった。 「俺、人の好意が目で見えるんだ」 「え……?」  輝彦の反応に、幸人の心臓が跳ね上がる。でも、輝彦ならきっと受け入れてくれる、そう思えた。  それでも、やっぱり怖くて膝の上で拳を握る。 「ほら、……運命の赤い糸って言うだろ? 恋をしたいひとは、赤い糸が小指についてる」 「う、うん……」  戸惑ったような輝彦の声に、幸人は苦笑して彼を見た。するとハッとしたように輝彦は幸人の握った手を片手で包む。大丈夫、疑ってない。そんな彼の声がした気がした。 「その糸が誰に向いてるか、誰と結ばれているかが見えて、それでひとの好意を読み取ることができるんだ」 「……マジかー……」  ため息をついてぼやいた輝彦。がっくりとうなだれた彼の様子に、やっぱり信じられないよな、と幸人は緊張で手が震えてしまう。すると輝彦の手に力が込められた。 「ごめん。違う幸人、俺は幸人を傷付ける意図はまったくない」 「……え?」  幸人は顔を上げて輝彦を見る。コンタクトレンズの薄い虹彩が、幸人を真っ直ぐ見ていた。 「つまり、俺の好意は初めから分かってたってことでいいか?」 「……ごめん」 「謝らなくていい!」  輝彦は大きな声でそう言い、更に手に力を込める。想像していたのと少し違う方向に話が向かっているようで、幸人は戸惑った。輝彦なら、幸人が嘘を言っていないと信じてくれるとは思ったけれど、こんなにすぐに受け入れてくれるとは思わなかったからだ。 「だって、俺は輝彦を騙してたんだぞ? 朱里さんと七海さんが、輝彦のこと好きだって知ってて、何食わぬ顔で間に入ってたんだ」 「……もー……、何それ……」  ずるいやつだ、と自嘲する幸人に、輝彦は抱きついてくる。  不思議だった。どうして輝彦は自分を責めないのだろう? 知っていたのに黙っていたのは、悪いことなのに。 「じゃあ、もっとグイグイいってよかったのかよ……」  抱きついたまま話す輝彦は、力が抜けたようだ。体重を掛けてきて、肩口に顔をうずめながらそんなことを言っている。 「だって幸人、コミュニケーション苦手そうだし、ビビらせないように、警戒されないようにって、すっげー我慢してたのに……」 「ああ……なるほど……」 「なるほどって……それも知られてたってこと!?」  うわー、恥ずい! と輝彦は抱きつきながらジタバタしている。  不覚にも、幸人はこの生き物がかわいいと思ってしまった。祥孝以外には話すつもりがなかったこの能力のことを、こんな風に受け入れて貰える日が来るとは思っていなかったのだ。 「うう……幸人、俺恥ずかしくて死にそう」  そう言う輝彦の声音は明るいままだ。もしかして、緊張している幸人を気遣って、あえてそういう態度をしているのかもしれない。そう思ったらきゅっ、と胸が締め付けられた。  幸人はそっと手を伸ばし、輝彦の頭を撫でる。見た目と同じくサラサラで、触れてみたらまた胸がきゅっとなった。そうか、これが好きになるって気持ちか、と思っていたら、輝彦が身動ぎする。 「ゆ、幸人?」 「ん?」 「さ、さっきから、大分心を許してくれてるなって……」  なぜか少し居心地が悪そうにモゾモゾする輝彦が顔を上げた。照れているのか少し頬が赤い。 「うん。俺、輝彦が好きになったみたいだ」  「幸人……!」 「でも……」  幸人は視線を落とす。 「嫌われるのが怖い。朱里さんと七海さんも傷付けちゃったし、自分だけ輝彦といるのは違うんじゃないかって……」 「……もー、何このかわいい生き物」  輝彦は今しがた幸人がしたように、幸人の頭を撫でた。そして「あのな」と諭すように話す。 「幸人はどうしたいの? 朱里と七海は、アイツら自身でどうするか決めることだよ」 「……俺は……」  もちろん、輝彦と一緒にいたい。けれど、そうすることで朱里と七海が、さらに傷付くのは見たくない。 「輝彦たちの仲を壊したくないんだ。俺がいることで関係が崩れちゃったから……」 「……ん? ちょっと待て幸人。もしかしてそれ誰かに……っていうか、朱里だろそれ言ったの」  輝彦に両肩を掴まれ顔を覗き込まれる。彼の強い視線に幸人は思わず正直に頷くと、輝彦は視線を逸らして「あいつ……」と舌打ちした。 「あ、朱里さんの言うことはもっともだと思うんだ。好きなひとと一緒にいたいのは当然のことだし、七海さんも大事だって言ってたから……っ」  幸人は朱里の気持ちも分かると言って庇うと、輝彦に「それは違う」と一蹴される。このままでは朱里が輝彦に嫌われてしまう、と何とか言葉を探すも、幸人には何もできなかった。四人で過ごしていた時間は短いけれど、幸人にとって新鮮なもので、幸人も朱里と七海のことが大事なのだと気付く。  ではやはり、自分が引くのが筋だろう。そう考えていたら、輝彦に苦笑された。また何か考えてるね、と頬を両手で包まれる。 「だって……」 「もう……」  かわいいなぁ、と輝彦の顔が近付いた。

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