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37 安心するひと★
輝彦の唇が、数え切れないほど幸人の唇と触れ合う。けれどさっきと違うのは、輝彦の手が幸人の頭や頬、首筋をゆっくりと撫でていることだ。
チリチリとした感覚がうなじや背中を走っていく。
「はぁ……っ」
息継ぎも苦しい。そのせいか頭もクラクラして輝彦の二の腕辺りの服を、ギュッと握った。
「あっ……」
すると何かに気付いたように輝彦は声を上げる。苦笑した彼は身体を起こすと、アウターを脱いだ。
今のいままで、アウターも脱がずに口付けをしていたことに気付き、幸人はいたたまれなくなって起き上がる。どうりで熱くなってきたわけだ、と幸人もアウターを脱いだ。
「幸人」
脱いだアウターを軽く畳んで荷物と一緒に床に置くと、ベッドの端に座った輝彦に隣に座るように言われる。少し身体は落ち着いたけれど、まだ熱い。お互いこの熱をどうにかしたい、とでもいうように、しばし見つめ合ってしまった。
輝彦の手が、背中をゆっくり撫でて腰に回される。くすぐったさに息を詰めると、顎を掬われキスをされた。
ちゅ、と音が鳴る。輝彦のキスはどうしてこんなにふわふわするのだろう、と幸人は再び意識が溶かされていった。首を撫でた手が気持ちよくて、はあ、と甘いため息が出てくる。
輝彦の手はそのまま下におりていき、太ももの上で止まった。その間も何度も唇を吸われ、舌も絡め吸われる。唾液で濡れた唇が輝彦の舌や唇と擦れる度、チリリとうなじや腰が痺れて胸を甘く締め付け、幸人をより切なくさせた。初めての感覚に幸人は少し戸惑ったけれど、宥めるように背中を撫でられ力を抜く。
「幸人……好きだよ」
切なげに言う輝彦の声にぞくりとする。すると太ももに乗っていた彼の手がゆっくりそこを這い、くすぐったさとは少し違う感覚に肩を震わせてしまった。
「あ……っ」
思わず漏れた声は自分でも驚くほど高く掠れ、慌てて口を塞ぐ。大丈夫、と宥められ詰めていた息を吐くと、輝彦の手が幸人の足の付け根を撫で、ゆっくりと中心まで来た。
「……っ」
ジーパンの中で窮屈そうになっていた幸人のそこは、服の上から温かい手に撫でられただけで腰が震えてしまう。輝彦は心得たようにそこを撫で、幸人の唇を吸い上げた。
「は……っ、あ……っ」
「ふふ、やっぱ幸人、敏感でかわいい……」
輝彦が嬉しそうに笑った。喉の奥で抑えたような彼の笑い声が幸人の耳をくすぐる。こんなところを他人に触られることはもちろん初めてで、羞恥心で顔が燃えそうだ。もちろん、嫌だと言えば輝彦は止めてくれるだろう。けれど、幸人を撫でる手が、声が、表情が、優しくて心地よくて、ここで終わってしまうのはもったいないと思ってしまう。
「輝彦……っ」
「ん、気持ちいいね……」
輝彦の手が、幸人のトレーナーの中に滑り込んできた。脇腹を撫でられ大きくビクつくと、また背中の手が宥めるように撫でてくれる。ゾクゾクが止まらなくて身体を震わせると、彼の指が胸のある部分を撫でた。
「……っ」
幸人の身体が大きく震え、輝彦の腕を反射的に握ってしまう。
「……いや?」
囁いた彼の声は上擦っていた。下着越しにそこを何度も撫でられ、幸人はきゅう、と身を縮こまらせる。胸が切なくなってなぜか目頭が熱くなった。ふるふると頭を振ると、触れるだけのキスをされる。
「幸人、力抜いて?」
「だ、だって……っ」
仕方がないだろう、ひとに身体を触らせるのは初めてなんだから、と幸人は輝彦を上目遣いで見た。欲情を湛えた輝彦の瞳はやっぱり優しげで、その顔がまた近付く。
「ん……」
「嫌だったら言って?」
頬や首筋に濡れた生温かい感触がした。そんなところを舐めるなと言いたいけれど、それでゾクゾクしてしまうのはなぜだろう? 下半身の熱は膨れ上がるばかりで、それをどうにかしたいという気持ちが脳内を占めていく。
「は、恥ずかしい……っ」
上擦った声も刺激を敏感に拾う身体も、自分のものじゃないような気がしていたたまれない。けれどこの身体の熱はどうにかしたい。
「幸人」
輝彦の吐息が熱い。彼の半開きの唇は幸人と同じように弾んだ呼吸をしている。視線を上げると、優しくも熱い双眸がこちらを見ていた。
「幸人ごめん。……出したいから付き合って?」
輝彦の直截的なお願い。それにぞわりとするのはなぜだろう? 幸人が戸惑っている間に彼は穿いていたパンツと下着を脱ぎ、下半身を露にした。彼が躊躇いもなく服を脱いだことに驚いたけれど、やはり男は性的興奮が見た目で分かるので目のやり場に困る。
そしてさらに戸惑ったのが、輝彦の怒張を見て興奮した自分に対してだ。やはり自分の性指向はこちらなのかな、と認めると同時に、彼に触れたいと思う。
「幸人も脱いでくれる? ……嫌ならいいんだけど」
「……うん」
ひとつ頷いて立ち上がると、輝彦も立ち上がって脱ぐのを手伝ってくれる。お互い裸になったら、輝彦がクローゼットからタオルを出してきた。
「……ありがと」
タオルを敷いて再びベッドの上に座り、輝彦は小さなキスをくれる。彼はやはりと言うべきか綺麗な体つきをしていた。思わず手を伸ばして彼の割れた腹筋の溝をなぞると、勢いよくその手を取られる。
「幸人、何してんのもう……」
触られたら自分が止められなくなるからやめて、と言われてぞわりとする。そんなギリギリの自制心で幸人に触れていたのかと思うと、顔が熱くなって脳が焼けそうになった。
輝彦の指示通りお互い向き合って、幸人が輝彦の身体を脚で挟むように座る。お互いの距離が縮まり、少し動けば切っ先が触れ合う。戸惑いと緊張で幸人のは少し萎えてしまったが、輝彦のはずっと天を向いていた。
「あんまり見られると恥ずかしいな……」
そう言って顎を掬われねっとりと唇を吸われる。肩に腕を回してと言われたので言う通りにすると、輝彦の手が胸を撫で、指先で腹を辿って下に降りていった。
「……っ、ん……っ」
「幸人、好きだよ……」
腕を回した輝彦の身体が熱い。まだ気温は寒いのにしっとりと汗をかいていて、一定のリズムで揺れていた。どうやら彼は幸人の身体を触りながら、自分で触っているらしい。幸人は恥ずかしくなって輝彦の肩に顔をうずめる。
は、は、と輝彦の呼吸を間近で感じ、彼が感じていると思うと幸人もゾクゾクした。温泉に行った時の、輝彦の切なげな声を思い出し、さらに身体を震わせ輝彦にしがみつく。
鼠径部を撫でていた彼の手が、ようやく幸人の肝心なところに来た。時折当たる輝彦の中心が、硬くてずくん、と下半身に響く。
「幸人……」
「あ……っ」
期待していた刺激が与えられ、幸人の背中がビクンと反った。当たっているのは輝彦の怒張だろう、まとめて握って扱かれているようだ。
「あ、あ……っ、……輝彦っ」
彼の熱さと局所への刺激に、幸人は背中や腰を震わせ悶える。意識が飛ばないように輝彦の背中と肩に爪を立てると、輝彦のもう片方の手が胸を掠めた。途端に視界が真っ白になり、幸人は顎を上げて絶頂を味わう。
「ぅあ! ……っ、あ……っ」
「……っ」
長く続く強くて甘い快感は、幸人をしばらく陶酔させた。抱きついている目の前の恋人が愛しくて、彼の湿った首筋にキスをする。
「……大丈夫?」
こちらを気遣う声に顔を上げると、同じく息を乱した輝彦と視線が合う。同時に彼も達したらしいと気付いたのはこの時だ。
一言も発せられずくたりとまた彼に寄りかかると、嬉しそうに笑った輝彦は幸人の背中を撫でてくれた。
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