43 / 57

43 我慢の限界

 そのあと、できあがった鍋をみんなで食べ、輝彦オススメの映画をDVDで見る。朱里は、映画館で観るのは苦手だけど、こんな風に観るなら楽しい、と言って、輝彦を喜ばせていた。  そして夕方まで話したり、ダラダラしたりして過ごすと、七海がバイトだから帰る、と言い出したのでお開きにすることにする。 「バイトは何をやってるの?」  幸人は緊張しながら聞いてみた。思えば、自分から他人のことを聞くなんて滅多にしないことで、いかに自分が今まで流されて来たかが分かる。でもこのメンバーなら、幸人が変な質問をしても笑って許してくれるような気がした。 「ん? 今日は居酒屋」 「今日は?」  詳しく聞けば、七海はバイトをいくつか掛け持ちしているらしい。親から学費の援助はあまりないから、足りない分をバイト代で補ってるのだとか。そういえば温泉旅行に行った時に、バイト休んで来てよかった、と言っていた。自分のために貴重なバイト時間を、と思ったら幸人は申し訳なくなる。  そう言うと、何でよ、と七海は笑った。 「言ったでしょ? ダチの誕生日祝うのは当然だっつーの」  ウチがしたいからしただけ、という七海は笑っている。もっと詳しく聞けば、話だけ聞けば苦学生っぽいけど、全然ヨユー……らしい。 「七海、服は中古でいいヤツ見つけてくるし、お金のやりくりマジすごいんだから」  そう言ったのは朱里だ。七海が普段着ている服はほぼ中古品らしい。全然そんな風に見えなかった幸人は、素直に驚く。  対して朱里は、いまだにお小遣いを貰っている身で、金遣いが荒い彼女を七海が矯正したのだとか。それでも、七海を素直にすごいと言える朱里も、裏がないから好かれるんだろうな、と幸人は思った。 「あ、ヤベ。マジで時間ヤバい。片付け……」 「いいよいいよ、俺たちでやっとく」  片付けをしようとした七海を止めたのは輝彦だ。朱里があたしも片付けるー、と言い出したが七海が止めた。 「何で?」 「バッカ空気読めっての。帰るよ」  半ば引きずられるようにして、朱里は七海に連れていかれる。またね、と二人が玄関ドアの向こうに消えると、輝彦と目が合って笑った。 「騒がしかっただろ?」 「……賑やかだったな」  意外と周りは幸人に厳しくない。輝彦の言葉が蘇る。朱里はそもそも深く考えないから、怒りや悲しみも、あまり長続きはしないのだろう。よかった、とホッとした。 「言った通りだったろ? 大丈夫だって」  輝彦の言葉に幸人は微笑むと、彼は頭を撫でてくる。幸人が対人関係が苦手なのも、すぐに自分に原因を探してしまうのも、幸人のせいじゃないからゆっくりでいいんだよ、と輝彦は言ってくれた。 「ありがとう……」  朱里たちと話す機会を作ってくれて。そう思っていたら、輝彦はグッと息を詰めた。これは、と幸人は身構えると、案の定輝彦は抱きついてくる。 「かわいい! 俺の幸人かわいすぎる!」 「ちょっと! 危ない……っ」  失礼ながらそんなに広くはない部屋だ。廊下でもつれ込み、部屋まで連れ戻されると、唇を奪われた。大体俺の幸人って何だ、と抵抗するものの、ぬるりと舌を入れられ、幸人はビクッと肩を震わせる。 「ちょっと、片付け……っ」 「そんなのあと」 「んん……っ」  ちゅ、ちゅっと濡れた音が響き、幸人は慌てる。片付けは早くしないと油汚れは落ちにくいんだから、と抵抗するけれど、輝彦は逃がしてくれない。 「お泊まりデートなんだから、好きなように過ごしたらいーじゃん」 「ちょ、まっ……て! ……そうだ輝彦、輝彦のシャツとパンツ貸してくれないかっ?」  このままではまた流されてしまう。苦し紛れで出た幸人の言葉が、輝彦の動きを止めた。そういえば彼は、幸人の彼シャツ姿が見たいと言っていたのを思い出したのだ。  もちろん、泊まる予定なので着替えも用意してある。けれどこれでそちらに気が逸れてくれたら、と幸人は願った。 「……ある。いっぱいある。どれ着る? 一緒に風呂入ろう」 「……え?」  思惑通り輝彦は彼シャツに気が向いたようだったけれど、今度は違うスイッチを押してしまったらしい。抱きつかれたままグイグイと脱衣所に押しやられ、幸人は慌てた。 「いや、風呂は一人で入るからっ」 「狭いけどシャワー浴びるくらいなら二人で入れる。うん、そうしよう」  輝彦の目が据わっていて怖い。そのまま脱衣所の壁に押し付けられ、唇を吸われた。 「ちょ、てる……んんっ」  何だこれ何だこれ、と幸人はゴン、と後頭部を壁にぶつける。容赦なく口内を犯す輝彦の舌は、昨日とは別物に思えた。 「幸人……ゆきと、ごめん、我慢できない……」 「……っ」  両頬を包んでくる彼の手が熱い。吐息も、視線も、輝彦が幸人を欲しているのは明白だ。輝彦と初めてキスをした日からそんなに日は経っていないけれど、今までの口付けとは格段に何かが違う。 「……っ、あ……っ」  それが何なのか分からないまま、幸人は小さく声を上げた。首筋に舌を這わされシャツの中に輝彦の手が入ってくる。ふうふうと大きく息をする輝彦は、敏感に刺激を拾う幸人を見て、さらに興奮したようだった。 「て、てるひこ……落ち着け……なっ?」  幸人は構わず首筋にキスをしてくる輝彦を、どうにか宥めようとする。ゾクゾクする身体を抑え、彼の二の腕を軽く叩いた。すると輝彦は綺麗な顔を歪め、目の前でふるりと背中を震わせる。 「無理……幸人たすけて……」  幸人がかわいくて大好きすぎて辛い、と小さな声で呟いた彼の、普段からは想像できない姿。そんな輝彦を見て、幸人もかあっと身体が熱くなった。  流されてはいけない、輝彦を落ち着かせなきゃと思うけれど、彼に応えてあげたいという気持ちがあった。なぜなら、彼はいつも余裕そうに幸人のことを待っていてくれたから。それこそ出逢った時から、ずっと。  これは流されている訳じゃなく、自分の意思でそうしたいと思ったんだ、と覚悟を決める。  幸人は彼の身体を引き寄せ、背中に腕を回した。

ともだちにシェアしよう!