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45 そもそもの話

「お待たせ。……あれ? テレビもスマホも見てなかったの?」 「……」  浴室から戻ってきた輝彦を見て、幸人は固まる。彼はコンタクトを取って、眼鏡をしていたからだ。ブラウンの四角いフレームだからか、真面目さと……なぜか色気が漂っていて、幸人は視線を逸らす。  普段の輝彦は柔らかさと派手さを兼ね備えているけれど、眼鏡で落ち着いた雰囲気になったからか、彼の姿を見ただけで胸に何かが刺さったようにキュンとしてしまうのだ。 「どうした?」 「あ、いや。……眼鏡、似合ってるなって……」  隣に座った輝彦からシャンプーの香りがした。同じものを使ったはずなのに、どうしてこんなに気になってしまうのだろう? 「そう? 朱里には真面目っぽくてつまらないって言われたんだけど」  そう言って、自然に腰を抱いてきた輝彦。幸人はそれに過剰に反応してしまい、頬が熱くなる。 「幸人?」  どうしよう、視線を合わせられない。探るようにこちらを覗いてくる輝彦から、逃げるように顔を背けた。 「……寝るには早いけど、どうする?」 「ど、どうする? って……」  それをあえて聞くのか、と思っていると、輝彦はさらに身体を寄せてくる。キスしていい? と耳元で囁かれ、くすぐったくて肩を竦めた。 「き、緊張する……」 「大丈夫、俺も緊張してる」  そう言った輝彦の長い指が幸人の顎を掬う。小さく音を立てて触れた唇は温かくて柔らかくて、自分の中のスイッチが入ってしまったのを自覚した。 「幸人、こっち来て」  手を取られ、ベッドの上へと誘われる。やっぱりそういうことをするんだ、と思ったら恥ずかしいけれど、輝彦に触れられる心地良さを知ってしまった以上、拒否をするという選択肢は幸人にはなかった。 「幸人、触っていい?」 「…………うん」  それでもきちんと意志を確認してくる輝彦はさすがだな、と思う。多分、幸人が少しでも嫌がる素振りを見せたら、止めてくれるだろうという安心感があった。  ベッドの上に座って、また腰を抱いてしっかりくっついてくる輝彦。優しく頬を撫でられ、幸人は戸惑いながらも彼を見た。 「大好き、幸人……」  吐息混じりに言う輝彦の声が、幸人の肩を震わせる。口角にキスをされ、もっとこっち向いてと言われたら、なぜか素直に言うことを聞いてしまうのだ。 「ん……」  キスをされるのと同時に、手を握られる。長い指を絡められ、しっかりと握られたら、胸がまたキュンとした。  輝彦が何度か幸人の唇を吸い上げると、彼は満足そうに笑う。そして幸人の目尻にキスをすると、ホクロがかわいい、とそこをちろ、と舐めてきた。 「……っ、そんなとこ、舐めんなよ……」 「嫌?」  ストレートに聞かれて、幸人は返答に困った。困ったのは嫌ではないからだ。こんなところ、舐められるなんて普段はないし、何よりくすぐったい。  そう言うと、嫌ではないんだ、と輝彦は嬉しそうに笑って唇にキスをくれる。くすぐったいのはいいことだよ、と言うので意味が分からず、口付けの合間に理由を聞いてみる。 「それだけ敏感だってこと。俺は嬉しいよ、責め甲斐があって」 「そん、……んんっ」  先程余裕がなさそうに見えた輝彦は、どこへやらだ。口内に舌を滑り込まされ、上顎を撫でられる。またくすぐったい感覚が幸人を襲ったが、同時に腰が跳ねて一気に恥ずかしくなった。 「……キスの時は目を閉じてね」  そう言われて、慌てて幸人は目を閉じる。前回はゆっくり溶かされていったので気付かなかったけれど、指摘されて初めて、半目で輝彦を見ている自分に気付いた。 「慣れてない幸人かわいい……」  そしてまた唇を塞がれる。舌先で舌を撫でられ絡められた。もっと出してと言われたので素直に舌を出すと、唇で食まれ、吸い上げられる。 「……ふ……っ、ん……」  自分から、信じられないくらい甘い声が出た。恥ずかしくて思わず口を塞ぐと、その手にキスをした輝彦は耳に唇を移す。 「かわいい……声ももっと聞かせて?」  耳に吹き込むように囁かれ、幸人はまた肩を震わせた。かあっと顔が熱くなり、腰の奥がじん、と痺れる。そのまま耳朶を舐められると、幸人は誤魔化しようもなく腰が跳ねて身を捩ってしまった。 「あっ……や、やめろ……っ」 「ふふ、気持ちいい?」  幸人の言葉通り止めてくれた輝彦の唇が、また幸人の唇に戻ってくる。下唇を軽く吸われ、また腰の奥がじわりと熱くなる。  恥ずかしいことじゃないよ、と言われて、手を繋いでいた輝彦の手が動いた。指先で頬をくすぐるように撫でられ、幸人はヒクッと肩を揺らす。すると輝彦は、かわいい、かわいいと頬から首筋、鎖骨までを撫でてくる。 「だか、ら、……かわいくは、ないって……」 「容姿だけの話じゃないよ? 照れてるのがかわいいとか、感じてるのがかわいいとか……」  だって、と幸人は眉を下げる。モテたことなんて一度もないし、性格を褒められたこともない。輝彦と違って背も筋肉もないから、かわいい要素は一つもないはずだ。  そう言うと、輝彦はやっぱりかわいい、とキスをくれる。 「だから、外見だけじゃないって。幸人は、絶対他人を否定しないところがかわいくて好き」 「……っ」  ちゅっと唇にキスをされるのと同時に、脇腹を撫でられた。思わず身体を引いた幸人は、それがかわいいと言うのなら、自分以外にも沢山いるだろ、と輝彦の手を取る。  すると輝彦は苦笑した。彼が幸人を意識しだしたきっかけも、好きになった理由も聞いたけれど、そんなところで? と幸人は思うばかりで、理解はするけれど納得はできないのだ。 「……なるほど分かった」 「え? ちょ、うわっ」  輝彦がそう呟いたかと思ったら視界がひっくり返り、ベッドに押し倒される。馬乗りされ両手も押さえつけられ戸惑っていると、顔を近付けた輝彦は感情が読めない表情をしていた。

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