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46 輝彦が我慢した理由★

「幸人は、俺のどこが好きなの?」 「え……」  感情が分からない輝彦の目は、じっと幸人を見ている。怒っているかも悲しんでいるかも分からない表情は、幸人を不安にさせた。  どうしよう、どう言うのが正解なのだろう? そう考えて幸人は輝彦の糸を探す。けれど彼の赤い糸は幸人の腕に少しだけ巻きついているものの、動く気配はない。 「……か、顔?」 「……何で疑問形なの」 「いやっ、それだけじゃないぞ? みんなに囲まれてて人気者ですごいなとか、キラキラしてて眩しい、とか」 「結局外見じゃん」  う、と幸人は言葉に詰まる。それでも、輝彦の手は離れなかったのでホッとした自分がいた。派手な見た目に悩まされてきた輝彦にとって、外見の話はタブーなのに、と思ってハッとする。 「気付いた? 多分俺は、幸人が思う幸人の短所が好きだと思ってる」  こくん、と幸人は頷いた。他人を責めないのは自分が傷付きたくないことへの裏返しだ。そしてその奥底には、こんな自衛ばかりの狡い考えを持っている自分が嫌いだと思っている。だから彼がいくら好きだと言っても首を傾げてしまうのは、自分の問題なのだ。 「俺は幸人に好きだと思われるなら、この派手な外見も悪くないなって思ってるよ」  そう言って輝彦は笑った。眼鏡の輝彦の笑顔に幸人は、顔がにやけてしまいそうなのを我慢するしかない。 「だからね、幸人がもう少し自分を好きになれるように、俺頑張る」  幸人はその綺麗な輝彦の笑顔に惚けてしまった。もしかして輝彦が以前言っていた頑張るとは、このことだったのか、と思う。 「……輝彦」  鼻がツンとして目頭が熱くなった。明るくて爽やかなのに、幸人に対しては本当に真摯で貪欲で。  正直、まだどうして自分を、と思わないでもない。けれど、裏切られることを恐れてばかりじゃ、何も進まない。それは輝彦から身をもって教わった。 「……輝彦……っ」 「……うん、大丈夫。幸人はその名前の通り、人を幸せにするひとだよ」  優しいキスが降ってくる。幸人はそれを受け入れながら、それは輝彦も同じだ、と思った。  キラキラ輝いて、その強い光でひとの心を照らしてくれる。暗い過去も、陰を落とす心の中も、全部光で包んでくれる、優しいひと。 「幸人……」  輝彦の手がゆっくりと幸人の手から離れ、腕から肩、胸を撫でてくる。大丈夫、ゆっくりでいいよと言われたようで幸人は胸がいっぱいになり、輝彦の首に腕を回した。  本当に、このひとはどこまで無条件に愛してくれるのだろう? それがなくなった時が怖いと思っているけれど、幸人は輝彦から離れられないのだ。 「……っ、ん……」  啄むような口付けをしながら、輝彦の手が胸の一部を掠める。服越しでもそれは確実に幸人の奥にあった欲望を呼び覚まし、身体が熱くなっていった。 「……結局脱がせちゃうんだけどねぇ……幸人が着たシャツ、洗わないで取っといてもいい?」 「それは……っ、あ……っ」  輝彦の変態発言に驚いていると、シャツの中に手が滑り込んできた。指先だけ触れるか触れないかの力加減で腹から胸へと撫でられ、背中が震える。 「……っ、んぅ……っ」  そのまま胸の敏感な部分に触れられ、思わず声を上げてしまった。さらにキスで唇を塞がれ、苦しくてくぐもった声で制止を求める。 「んっ……、ンンン……ッ!」  唇を吸われる音に脳が痺れる。背中が浮いたり沈んだりして、こんなに反応してしまう自分が恥ずかしい。 「う、……ふう……!」 「っは、幸人かわいい……っ」  いきなり様々な刺激を与えられ、思考が追いつかず輝彦にしがみつく。熱い体温と体躯の良さを感じられる背中にゾクゾクして、彼のシャツをちぎれんばかりに握ってしまった。 「幸人、嫌じゃない? 気持ちいい?」  輝彦の声が少し掠れて、幸人の耳をくすぐる。跳ねて浮き上がった腰を撫でられ、輝彦に腰を押し付けてしまった。 「……っ、気持ちいいんだね。よかった……」 「──あ……っ!」  シャツを捲りあげられ、胸の尖った箇所に舌を這わされる。同時に輝彦の腰を押し付けられ、その熱さと硬さに思考が白く染まった。 「だ、ダメだっ、そんなことしたら……!」  ゾクゾクが大きくなって身を捩りたくなる。意味もなく輝彦のシャツを握り直したら、手が震えた。 「いいよ出しても……。替えの下着もあるからね」  どうしてそこまで用意周到なんだ、と叫びたかったけれど、喘ぐので忙しい口は甘い嬌声しか出てこない。輝彦は幸人の胸を舌で愛撫しながら、幸人の足の間にある熱をパンツの上から握る。 「すっごい熱い……幸人、かわいい……」 「んぅ……っ!」  服越しにそこを扱かれ背中が反った。弾みで輝彦の肩から幸人の手が離れてしまい、身体を捩ってベッドに顔を(うず)め、掛け布団を力一杯握りしめる。 「だ、だめ……輝彦っ、いくっ、いくから……っ!」  はあっ、と吐いた息が震えた。布団を握りしめた手も震える。視界と思考が霞んでいき、ある瞬間、腰から脳へ電流が突き抜けるような感覚が幸人を襲う。 「──あ! ……っ、はあっ!」  覚えのある感覚に幸人は全身をぶるりと震わせた。唇を噛み締めて快感に耐えていると、輝彦も息を詰めたような声がする。どうして輝彦まで、と思うけれど、それを尋ねる余裕はない。 「……っぶね、俺までいきそうになった……」  そう呟いた輝彦は、熱くなったのかシャツを脱いだ。その勢いでパンツも下着ごと脱ぐ。 「なん、で、輝彦まで……」  前回と同じように、輝彦がなんの躊躇いもなく服を脱いだことに呆気にとられた幸人は、されるがまま輝彦に服を脱がされる。まだ萎えていない熱が下着に擦れて悲鳴を上げたが、輝彦は表情も変えず脱がせた服を放り投げた。  輝彦は触られてもいないのに余裕がなさそうだ、と思っていると、そりゃあ、と輝彦はまた上から覆いかぶさってきた。 「好きな子が気持ちよさそうにいく姿を見たら、興奮するでしょ」 「……っ」  それもそうか、とは思うけれど、面と向かって言われると恥ずかしい。とはいえ幸人はもう達してしまったのだから、次は輝彦の番だ、と彼を見る。すると、輝彦は幸人の上にいながら、ベッド近くの棚を探っていた。 「……何してるんだ?」 「ん? ……やっぱこれはしないと」  そう言って輝彦が出してきたのは、コンドームとローションだ。そこでようやく、輝彦が先程我慢した理由と、痛い思いをさせたくないという発言が、何を指していたのか悟ってしまう。 「ま、まさか……」  幸人は「それ」について、ある程度の話は知っていた。けれどそれはそういう性行為を、やるひとがいるらしい、という本当に噂程度のものだったのだ。まさかそれを今から、輝彦とやろうというのか。 「ダメだったらまた前回みたいに触るだけにする。痛かったらすぐに教えて?」  そう言って、輝彦はコンドームの個包装を開けて指に着け、ローションの蓋を開けた。

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