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47 大事なひと★

「うっ、うう……っ」  幸人は涙目で輝彦にしがみつき、下半身の違和感をどうにか逃がそうと、息を吐いて力を抜く。  下からはぬちぬちとローションの音がしていて、それが恥ずかしくて耳を塞ぎたいとさえ思った。 「辛くない?」 「う……っ」  こちらを労わるように額にキスをしてくる輝彦だけれど、下の指は止めない。何とか指は二本受け入れられた。けれど、痛みはなくても圧迫感がすごい。幸人は辛うじて頷く。  これで、輝彦が入ったらどうなるんだろう? もっと苦しいだろうし、そんなことが本当にできるのか、と思ってしまった。 「やば……幸人の中温かくて、俺想像だけでいきそう」  そう言って輝彦はまた幸人の顔にキスを落とした。彼の顔は熱く、興奮しているのは明らかだ。それでも幸人が受け入れられるまで、ゆっくり丁寧にしてくれているのだと思うと、下半身の違和感も乗り切れそうな気がする。輝彦と繋がった時もこの感覚なら、幸人は彼を受け入れようと思ったのだ。 「……っ?」  しかし、ある瞬間に今までとは違う感覚が幸人を襲う。戸惑っているうちにまた腰の奥が痺れて、思わず息を詰めた。 「……痛い?」 「いや、……何か、変な感じ……」  何だろうこの感覚は、と幸人は思う。内側から広がる甘い痺れは、今までに経験したことがない感覚だ。 「ん……っ」  しかも輝彦は、その刺激を絶え間なく与えてくる。上にいる彼を見ると、また軽くキスをされた。  輝彦はキスが好きなんだな、と思う。彼の口付けは幸人の意識を溶かすから、幸人も彼とのキスは好きだ。そう思ったら、きゅう、と胸が締め付けられた。それと同時に輝彦の指を締め付けてしまい、無意識の反応に幸人は戸惑う。 「気持ちいい?」 「分からない……けど、……っ」  今度はハッキリと違和感が快感として脳が認識した。背筋に電流が走ったような感覚に、幸人の声も上擦る。 「あっ、なにっ?」  幸人の疑問に輝彦は答えず、嬉しそうに笑うだけだ。勝手に背中や腰が震えそうになる刺激に戸惑い、幸人の目尻から涙が零れる。 「あっ、あーっ、……輝彦っ」 「気持ちいいね幸人。大丈夫だよ……」  気持ちいい? これがそうだと言うのだろうか、と幸人は輝彦にしがみついた。下からは絶え間なく水っぽい音がするし、何もかもが初めてのことで戸惑ってばかりなのに、輝彦はそんな幸人をかわいい、かわいいとキスをしてくれる。  胸が熱くなって、子供のようにぐすぐすと泣きたくなった。後ろも熱くなって、無意識下で輝彦の指を締め付けていることに気付いたら、首を反らして這い上がってくるゾクゾクをやり過ごす。 「やば……幸人このまま後ろでいけそうなんじゃない?」  後ろでいくって何だ、と幸人は思った。射精の快感しか知らない幸人は、ただでさえ今の状態に戸惑っているというのに。  すると輝彦は指の動きを激しくする。強い刺激に悲鳴を上げ身を捩り、布団を手繰り寄せてしがみついた。とにかく息を詰めて耐えていないとどこかに堕ちそうで、布団で口を塞いで叫ぶ。 「ああああ……っ!」  まだ指だというのに、視界がチカチカする程の強烈な快感。これを快感と言っていいのか分からないけれど、下手をすればのたうち回りたくなるほどの刺激に太ももが勝手に痙攣した。 「ああ! 嫌だ! てる……っ、いや……っ!」  布団を口元に当てながら叫ぶ。強すぎる刺激についに涙腺が崩壊し、情けなく泣いた。さすがに輝彦は手を止め、指を抜いてくれる。 「すごいね幸人、大丈夫だよ……」  指は抜けたというのに、幸人の後ろは指を惜しむようにヒクヒクと動いていた。自分が自分じゃないみたいで怖くなり、輝彦に自ら抱きつく。  彼の体温に酷く安心し、さらに涙が溢れてきた。泣きながら輝彦の名を呼ぶと、目尻にキスを落としてくる輝彦は、微笑みながら片手で頭を撫でてくれる。 「足が震えてる。……大丈夫」  感じすぎて感極まっちゃったんだね、と輝彦は慰めてくれた。まさか今の状態がそれなのだとは気付かず、甘えるように輝彦の顔を引き寄せる。 「あはは、甘えん坊な幸人もいいなぁ……」  よしよし、と嬉しそうに言った輝彦を、少し落ち着いた幸人は拗ねたように睨む。しかし輝彦は怯む様子がなく、ニコニコ顔のまま額を合わせてきた。 「幸人、挿れていい?」  そう言った彼の目には、確かに欲情が見える。彼の体温、声、そして下半身を見れば限界は近そうなのに、それでも幸人への意思確認を忘れないところにキュンとしてしまった。 「ん……」  息も絶え絶えなので吐息と一緒に出た返事。しかも今までの強い刺激で脳が考えることを放棄していた。嬉しそうに笑う輝彦は片手でゴソゴソと何かをしているけれど、それを確かめる気力もない。 「あ……」  ぴと、と後ろに何かがあてがわれる。熱くて指よりも遥かに質量のある、輝彦の──……。 「う! んんんんーッ!」  幸人の後ろに熱い楔が入ってきた。あまりの圧迫感に呼吸もままならず、慣れてきていたはずの後ろは異物を出そうと動き出す。 「……っ、幸人、……幸人、力抜いて……」  上から苦しそうな声がした。幸人は生理的に出てきた涙を流しながら、ふるふると首を振る。 「む、むり……っ」  太ももの震えが止まらない。ずっと足を開いていたから、股関節も痛くなってきた。こんな状態で、輝彦がいくまでこの体勢を保っていないといけないなんて辛い。 「指が入ったから大丈夫。お願い、もう少しだけ……っ」  輝彦の額から汗が落ちてきた。限界なのは自分もだ。けれど恋人の懇願に、もう少しだけ頑張ってみようと思う。 「……ふー……」  力を抜くため声に出して息を吐き出す。すると少しずつ、輝彦が入ってきた。 「あ……」  輝彦の腰が、幸人の尻に当たる。熱い輝彦の怒張を体内で感じた途端、後ろが勝手に動き出した。 「ああ……幸人、すごいね、全部入っ……」  輝彦がぶるりと肩を震わせる。みっちりと埋められた後ろから、彼の熱がこれでもかと主張しているのが伝わってきた。それに呼応して輝彦もどんどん顔を顰め、苦しさを紛らわすように大きく息を吐く。  一方幸人も、呼吸もままらならないほどの圧迫感で、またボロボロと涙を零していた。しかしこのままじっとされるのも、動かれるのもしんどくて、どうしたらいいのか分からずさらに泣けてしまう。 「辛いね、ごめん……っ」  輝彦が顔を顰めたまま、幸人の涙を指で拭った。はあはあと二人の呼気がぶつかり合う距離で見つめ合い、互いに苦しくて膠着状態だ。  でも、それでも。ここまできてもやっぱり幸人を気遣っている輝彦なのだ。彼はきっと、幸人がいいと言うまで動かないだろう。自分だって苦しいのに、本当は思い切り動きたいだろうに、抑えている目の前の恋人が愛おしい。 「……っ、幸人……っ」  切なげに自分を呼んだ輝彦が、幸人の頬を両手で撫でる。唇は震え、押し付けている腰も震えていた。彼は一つ口付けを落とすと、目を伏せ歯を食いしばる。 「輝彦、……輝彦。いいから。……動いていいから……っ」  幸人の言葉を待っていたように、輝彦はゆっくり動き出した。

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