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48 これからは二人で★
「あっ! あっ! ……──あああっ!」
幸人はあまりの刺激の大きさに、耐えられず声を上げてしまう。
「ああ、すご……っ。幸人……幸人、気持ちいい……っ」
「あ! や!」
幸人はもはや言葉も紡げなかった。揺さぶられている強さはそれほどでもないのに、意識が全部繋がったところへと引きずられていく。下から水っぽい卑猥な音がしていて、それも幸人の興奮と羞恥心を煽った。
これがこんなに恥ずかしくて、気持ちいいことだとは思わなかった。指よりも確実に幸人の性感を高めていく輝彦の雄は、熱く猛って中のいい所を擦り上げていく。
そしてその度に幸人の内襞は、輝彦を締め付けていくのだ。
「て、てるっ、輝彦っ!」
幸人は揺れる身体で何とか手を伸ばし、輝彦の首に腕を回す。ずっと開いている股関節が悲鳴を上げそうだけれど、幸人の後孔は輝彦を離すまいと吸い付いていた。
──離れたくない。このままずっと、赤い糸が結ばれたまま枯れるまで一緒にいたい。
そう思って抱きしめると、輝彦は噛み付くようなキスをしてきた。今まで我慢していたものが爆発したような激しいそれに、幸人はくぐもった声で悲鳴を上げ、一瞬にして音と視界が飛ぶ。
ガクガクガク! と全身が痙攣した。呼吸ができず喘ぐと、輝彦も短く呻いている。
「あ、あ、……ああ……」
「もしかして、ドライでいっちゃった?」
幸人の様子に動きを止めた輝彦が尋ねてくる。そう聞かれても、初めてのことなのでこれが何なのか、自分でも分からない。
「わ、分かんな……っ」
分からなかったけれど、後ろが絶えず自分が意図しないところでひくついていて、腰や背中の震えが止まらなくなったことは理解できた。このまま一生こうなのかなとか思ったら、怖くなって輝彦にまたしがみつく。
「……幸人、射精なしで絶頂することをドライオーガズムって言うの」
「──あっ!」
再び動き出した輝彦に、幸人の身体は驚くほど早く反応した。腰がうねり中も締まり、身体の震えが大きくなる。
「……うん。幸人、今いったんだね……」
かわいい、と目尻にキスをされた。もう、輝彦にとっては何でもかわいいになるのか、と呆れるけれど、身体はそれどころじゃない。
最初はあれだけ酷かった圧迫感も、いつの間にか馴染んでいることも怖かった。輝彦の熱い凶器が幸人の中を擦る度、もう元には戻らないんじゃと思うほど身体が痙攣する。
「震えが止まらないっ! 怖い輝彦っ、何か来る!」
「大丈夫幸人。幸人の後ろ、いい感じに俺を締めつけてくれてるよ?」
「嫌だ! ま、また……来るっ。来る来るくる……っ!」
パンパンと肉がぶつかる音が急激に遠くなって、幸人はグウッと呻いて腰を震わせた。視界が白く飛び、輝彦の動きを制止するつもりで腕と足を彼の身体に絡める。
「あっ、ああ……っ」
それでも輝彦は止まらなかった。耳元で聞こえる彼の呼吸は声が漏れるほど激しい。でも、それほど自分を求めてくれているんだと思ったら、嬉しさと感動しかなかった。
「幸人……いくよ? いっていい?」
上擦った輝彦の声が幸人の肩を震わせる。湿った肌が愛おしくて、幸人は無意識のうちに輝彦の頬に唇を這わせた。
「……っ、うぅ……っ!」
ビクン、と輝彦の首が反る。彼の腰が不規則に跳ね、幸人は後ろの中がじわりと温かくなったのを感じた。
「ああ……」
感極まったように目を細めた輝彦は、幸人の頬を撫でてキスをくれる。息が上がっていて苦しい口付けを何度も交わし、やがて彼は唾液の糸を引きながら身体を起こした。
その顔が緩む。
「幸人、すっごく気持ちよかった……ありがと」
「う、うん……」
とうとう最後までしてしまった、と幸人は照れくささで視線を逸らしてしまった。輝彦がそっと出ていったあとも、後ろが痙攣したように動いていた自分には閉口したけれど。
しかしそれ以上に、ベッドが散々な状態になっていていたたまれなくなった。ローションやら体液やらが付着した布団では寝られない、と二人で後始末をし、シャワーを浴びる。その時にまた輝彦が手を出してきたので、なし崩しにもう一回浴室でしてしまった。猿に成り下がったなと反省して再びベッドに戻れたのは、夜が深くなる頃だった。
自分の中にこんなに性欲があるとは思わなかった。自分ですることもそんなにないのに、輝彦には触れたい、触れられたいと思ってしまう。
「ふふ、よかった。またしたいと思ってくれて」
狭いシングルベッドに入り、抱き合いながら上機嫌に輝彦は話している。こんなに強烈なできごとは、忘れようと思っても忘れられない。
そして、散々睦み合ったにも関わらず、輝彦の赤い糸は幸人の腕に巻きついたままだ。片時も離したくない、という強い意志が垣間見える。
いつか彼が言った、ずっと好きでいる、浮気はしない、という言葉を、この赤い糸が示してくれているような気がして、幸人は輝彦の手を取りキスをした。
「幸人?」
不思議そうに見てくる輝彦。相手を信じて、自分がどうしたいか考えることの大切さを、教えてくれたひと。愛おしさで胸が熱くなって、幸人は微笑む。
「輝彦、好きだよ」
「……っ、幸人おおおお!」
「うわっ、……こら、痛いって!」
ぎゅうぎゅうと抱きしめられ、幸人はもがいて離れた。すると、電子音が部屋に鳴り響く。どうやら輝彦のスマホのようだ。
「何だよいい時に……」
いつかと同じように邪魔が入ったな、と口を尖らせながらスマホを取った輝彦は、画面を見て固まる。どうしたのだろうか。しかもこんな夜遅くに。
「あれから母さん、しつこくモデルのバイトに復帰しろってうるさかったから。……これ」
画面を見せてくれた輝彦は笑っていた。幸人が見た画面の最後には「好きにしなさい。後悔しても知らない」の文字。確実に喧嘩をしていると思われる文面なのに、輝彦は明るい表情をしていて訳が分からなくなる。
「今まで俺も母さんの言いなりだったんだ。でも、これでやっと抜け出せる」
後悔なんてする訳がない、自分が決めたことなんだから、と輝彦は熱が籠った瞳で幸人を見ている。
そして幸人のおかげだ、と輝彦は軽くキスをくれた。
こんな自分でも好きなひとの役に立てるんだな、と思うと嬉しくなる。自分の特殊な能力以外でも、大切なひとを勇気づけられるのだと。
大丈夫、ずっと泣いているひとはいないから。
これは輝彦に向けて言っているようで、実は自分に向けて言っていた部分もあった。幸人も、やっと抜け出せたのだ。
「輝彦、これからもよろしくな」
「もちろん、こちらこそよろしく」
これからは、二人で。むしろこれからの方が、困難は険しく大きいかもしれない。でもそれも自分が選んだ道。幸人は後悔しないようにしたい、と強く思う。
新たなスタートラインに立った二人は、また深い口付けを交わした。
[本編 完]
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