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第3話
《湊side》
その日はいつも着替えているトイレに先客がいた。
閉められた個室からタバコの臭いが微かにする。先輩か不良がいるのだろう。
面倒な事には巻き込まれたくないので代わりの場所を探す。
今日の体育では体力テストがある。その為遅れる事は許されず、急いで近くの空き教室に逃げ込んだ。カーテンの閉められた教室は薄暗く埃っぽい、備品の山を見る限りここは倉庫になっているのだろう。
こんなところに人などいるはずない、
そう思っていた。
――のに。
見られてないよね?
慌てて教室を飛び出して走り出す。
息も絶え絶えになるほど廊下を走り、人目に付かない外階段に身を隠す。
なんで、あんなところに凪くんが。
同じクラスの凪 穂高(なぎ ほだか)くん
話したことはないけど、背が大きくて目立つから存在は知ってる。
授業になるとフっといなくなることが多くて、
なのにテストの順位は意外といい。
肩まで付きそうな茶髪に端整な顔つきで、
あんまり人付き合いは良く無さそうだけど隠れファンが多いって噂だ。
見られたかな?
でもあの教室は薄暗かったし、
急いで着替えたから大丈夫なはず。
どうか
どうか見られていませんように。
結局、動揺している間に授業は始まってしまい、
遅れて入って目立つのも困るので体調不良を理由に保健室に向かう。
「来たね、そこ座って」
ドアを開けて早々声をかけられいつものようにドアの内鍵を閉めて椅子に座る。
「体育休んじゃった」
上着を脱ぎながらそう伝えると
ひんやりとした脱脂綿が背中に触れる。
「痛っ!先生、もうちょっと優しく!」
「はいはい我慢我慢~ちゃんと消毒しないと膿んじゃうからね」
「痛い痛い意地悪!」
「可愛い生徒の怪我の手当てまでしてあげて秘密まで守ってあげてるのに意地悪とはずいぶんな言われようだな」
この人は唯一俺の事情を知る人だ。
「わかってるよ、…それは感謝してます」
「素直でよろしい」
にこりと笑うそこの人はこの学校の保健医だ。
柊 雅臣(ひいらぎ まさおみ)先生
28歳で背も高いし女子受け抜群のルックス、なのにすごく気さくな性格でとても人気のある先生だ。たまにちょっと意地悪だけど。
1年の時に倒れたのをきっかけにたまに怪我の手当てをしてくれている。
そして、俺の意思を尊重して深入りしてこないでいてくれる。
「ところで、来月からプール始まるけど全部見学でいいよね?」
「うん」
「じゃあドクターストップって事で届け出しとくから。日差しに弱いって事にしてあるんだから油断して外で遊ばないようにね。熱くても長袖厳守すること!
…本当なら体育は全部休んでほしいけどね」
「それはできないよ、単位落としたら父さんに叱られるし」
先生の計らいで、体育は基本体育館での授業参加のみ
野外もプールももってのほか
もちろん日差しが弱い身体だからではない。
痣や傷が見えないように長袖厳守、それは制服のみならず体操服も例外ではなく。そんなことを許されるのは先生が俺の病状を偽装してくれているおかげでもある。
「大丈夫、無理はしないようにするよ。でもありがとう先生」
俺はこの人に、これ以上迷惑をかけるわけにはいかない。
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