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第5話
《湊side》
半年前、俺が高校1年の冬、母が2度目の離婚をした。
あの夏の夜、父に襲われてから1年以上が経過していた。
離婚の原因は詳しくは分からない。
傍から見ればとても仲のよい夫婦、家族だったと思う。
あの日のことを俺は誰にも相談できないまま、家の中でも作り笑いをするようになった。
そうしていないと正気が保てなかった。
笑顔の裏で、
幸せな団欒の中で、
あの行為は何度も続いた。
離婚が決まって、当たり前のように俺も妹達も母についていき、再婚する前の生活に戻ると思っていた。
これでようやく開放される、
そう思ったのに、この男は
自分について来るようにと俺に命じた。
言う事を聞かないと双子の妹達を同じ目に合わせると。
どんなに逃げ離れて暮らそうとも、絶対に見つけ出して誘拐することもできると俺を脅したのだ。
そうして今の、
父と二人の生活が始まった。
悪夢のような日々は、今も毎日続いている――。
身体が熱い、傷が膿んでいるのか、はたまた行為による疲労なのか。
昨日は帰宅中に気分が悪くなって動けなくなり、門限に少し遅れてしまった。
たった数分のことだったが玄関に入るなり父に凄い形相で怒鳴られ
髪を掴まれ部屋に引きずられた。
最初の頃は自分が抵抗さえしなければ暴力は振るわれない、そう思って必死に耐えていた。だがこの男は気分や機嫌で暴力を振るう。
相手の抵抗などさほど意味のないものなのだとこの1年半で学んだ。
学校にいる時が唯一救いの時間だった。
ここにいる間は逃げられる。
痛いことも、嫌なこともされない。
そう思っていたけれど、
疼く傷と、時が過ぎて帰宅する事を考えるだけで、とうとう学校にいても気分が落ちるようになってしまった。
1年の頃、授業中に体調を崩したことがあった。
倒れはしないものの熱で帰宅できず父が呼び出され、その夜はひどく暴力を振るわれた。
問題を起こしたり、学校に悟られるような事はするなと。
単位を落としでもしたら母親の方に連絡が行くかもしれない、それを父は嫌悪しているようにも見えた。
幸い学校では、誰も俺の異変になど気づかない。
そう思っていたのに
あの日もしかしたら
クラスメイトに体の傷を見られたかもしれない。
見られていない、そう思って数日過ごしたが
どうもあの日から視線を感じて仕方がない。
それが同情なのか単に興味本位なのか
それとも俺の勘違いなのか分からない。
何か言われたらそんなものは見間違いだと、適当にごまかせばいい。
接触してくるわけでもないそのクラスメイトの本心は分からないまま、
だけど絶対に嘘を突き通してみせる。
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