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夏の日-A-【番外編】

 遮光カーテンの隙間から漏れる光で分かる晴天。セミの大合唱に室外機の回る音。  まごうことなく「暑い」季節。  夕飯の買い出しのついで。6本入りのアイスバーの箱を開けて中を見ると、少し溶けて柔らかい。  一本だけ出して残りは冷蔵庫にしまうと、リビングのソファでアイスを口にした。 ────冷たい。  外の暑さとは対照的にひんやりとしたものが口の中に広がる感覚。  美味しいというよりは心地いい。ぼんやりと考えていると、「ただいまー」と廊下の方から声がした。 「あっちぃー……外、めちゃくちゃ暑い」  廊下を歩く足音。ソファに座ったまま、ドアの方へと顔を向けた。 「おかえ……」  り。と続くはずだった言葉が飲み込まれる。 「ただいまー。お、佑、いいもの食ってんじゃんかー」  俺にも寄越せ、なんて笑うのはいい。が──  バキ。 「って、うわ、お前、アイス落ちるぞ」  勢いあまってへし折ってしまった棒から滑り落ちそうになったアイスの残りを慌てて咥えた。短くなって食べづらい残りをもそもそと食べながら半眼。 「…………洋佑さんがそんな恰好してるからでしょ」 「だって暑いから……汗、めっちゃかいたし」  そんなに変か?と自分の身体を見下ろす恋人の恰好は下着一枚。一応スーツで会社に行ったはずなのに、残りの衣服はどこへやったのか。  廊下を歩く途中で服を脱ぐ、なんて器用なことは自分には思いつかなかった。  人の葛藤を知ってか知らずか、本人は冷蔵庫から麦茶を出してコップへ注いでいる。一気に煽った後、大きく息を吐き出して二杯目。 「っはー……うっま。生き返るわー。佑、本当麦茶いれるのうまいよなぁ」  にこにこしながら二杯目を煽る。ようやく暑さが落ち着いたのか、それ以上は麦茶を注がず、冷蔵庫へとしまいなおした。 「とりあえずシャワー浴びてくるー。アイスはそれから食べるから」  全部食うなよ、なんて冗談めかしたことを言いながら部屋を出ようとするから、思わずソファから立ち上がって腕を掴んだ。 「……佑?」  きょとんと首を傾げている。ああ、もう本当にこの人は──  不意打ち。強引に顔の向きを変えさせて口づける。冷えた舌で普段よりも熱を帯びた唇をなぞってからすぐに離した。  汗の味がする。 「おまっ……いきなり、何」  狼狽えて口元を押さえる。外の暑さとは違う火照りで顔を上気させるのを見ると、佑はやんわりと笑った。 「そんな恰好でうろうろして、何もされないと思っている洋佑さんが悪い」 「へっ?」  壁ドンならぬカウンタードン。キッチンカウンターと自分の身体の間に挟み込んで、逃げられないように固定した後、視線を合わせる。 「アイス……夜中になっても、僕のせいじゃないからね」 「何言って────」  続く言葉ごと飲み込むように深く口づけた。アイスよりも甘く惹かれるものを目の前にぶら下げられて、笑って見送れる程、人間出来ていない。  結局。二人がバスルームから出て冷蔵庫の前に立ったのは、日が暮れてから少し経ったくらい。  子供だったらご飯食べるまでお預けだなぁ、なんて言いながら薄い青色のアイスバーを咥えて笑う。  ────本当にこの人は……!  がり、と佑が棒の端を噛んだのはそのすぐ後のことである。

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