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クリスマスプレゼント-C-

 ハロウィンが終わったと思えば、街並みはクリスマス模様。  どこどこのツリーの点灯式や、期間限定のイベントの宣伝等、テレビでもネットでも様々な情報が飛び交っている。  そんな中、洋佑はいつも通り──よりは忙しい日々を送っていた。  他の業界のことはわからないが、この業界では季節は一足も二足も早い。自分のデスク回りでは既にバレンタインやひな祭りのあれこれが広げられている。  会社の外に出ると、クリスマス一色の景色に多少戸惑いを覚えつつも、デコレーションされた街を見るのは好きだ。  クリスマス商戦真っ只中の通りを抜けて、帰宅する頃には小さなケーキの箱を手にして自宅──恋人が待つマンションへと。 「ただいま」  いまだに少し戸惑いはするものの、玄関のロックを解除できずに開けてもらうことは殆どなくなった。ドアを開けてリビングへと向かえば、夕飯の匂い。 「おかえり──」  準備をしていた恋人──佑が顔をあげる。洋佑の手にした箱が気になったのだろう。視線がとまっているのをみて、軽く持ち上げて佑へと見せる。 「ケーキ買って来たから。後で食べよう」  とりあえず冷蔵庫へとしまった。スーツを着替えに一度リビングを出る。いつも通りのスウェットの上下に着替えてから戻る。 「クリスマスにつられちゃった?」  からかうような佑の口調に素直に頷いて席に着く。 「うん。でも、凄く美味しそうなケーキだぞ」  楽しみにしてる。  佑の嬉しそうな表情を見ると自分も嬉しくなる。用意してくれた夕食へと手を合わせてから箸を伸ばした。 「佑の家のクリスマスはどういう感じなんだ?」  食事を進めながら眉を寄せる。 「僕の家……?小さいツリーを飾って、ケーキを食べて……朝起きたらプレゼントを貰う」 「そっかー。俺ん家も似たようなもんだなぁ。ツリーはなかったけど」  近所のスーパーで買って来たチキンとケーキ。子供の頃はそれが特別なご馳走に思えていたけれど。 「洋佑さんは欲しいものあるの?」 「プレゼント?」  佑が頷く。うーん、と考えながら、おかずを口へと運ぶ。咀嚼して飲み下すまでは無言。 「……これ、って思いつかないな……佑は?」 「僕は洋佑さんがいてくれたら、それでいいよ」  ぶれない。はは、と照れ笑いを浮かべながら、洋佑は目を伏せる。 「お前、本当に欲がないな」  こうして欲しい、あぁして欲しい。そういった要求はほとんどない。 「たまには我侭言ってもいいんだぞ?……いや、そうか。お前、買おうと思えば何でも買えるもんなぁ」  正確にどれくらいか、なんて聞いたことも聞くつもりもないが。利息だが利回りだか、そういったものだけで生活できる程には貯金があるのだ。  欲しいと思えば、大抵のものは自分で買ってしまうだろう。 「そうだね。でも──プレゼント考えるのは好きだし、貰うのも嬉しいよ」  ご馳走様、と食べ終わった食器を重ねていく。洋佑も自分の食器を重ねながら話を続ける。 「だって、好きな人の事を考えながら、迷う時間って楽しいでしょ?」  だから好き。  屈託のない笑顔を向けられて洋佑は視線を逸らした。 「ん──ありがと」  言葉の代わりに笑顔が返ってくる。二人で食べ終えた食器を洗い終えた後、佑が手を拭きながら尋ねてくる。 「洋佑さんは……僕にプレゼントするとしたら、何をくれるの?」  落ち着いたと思った鼓動が早くなる。変な話だが、たとえ飴玉一つだろうと佑は喜んでくれる自信はある。  が──もし、本当に何か贈るなら、自分なりに考えたものを贈りたい。 「……ネクタイ、とか」  声が小さくなってしまう。以前、テレビか何か知った知識。ネクタイをプレゼントする意味──  薄く肌を染めて眼を逸らした洋佑へと、そっと佑の腕が伸びてきた。ゆっくりした動きで抱きしめられる。 「…………嬉しい」  囁かれる言葉。吐息が肌に触れるのにびくりと肩を竦めてしまう。こめかみの辺りに繰り返し口づけられ、頬が更に熱くなるのをごまかすよう、自分から顔を佑の胸へと押し付けて抱きしめ返す。 「──佑は?」 「僕?」  動きが止まる。やや間を置いてから 「腕時計」  紡がれた言葉に顔を上げた。自分を見ている佑と目が合う。 「腕時計なら、洋佑さんとずっと一緒にいられるでしょ?」 「……うん」  頷いた後、自分から顔を寄せた。口端へと口付けた後、改めて首へと腕を絡め直す。 「佑」  何?と視線で問いかけてくる。迷うように目を伏せた後、顔を寄せながら囁く。 「ケーキ……明日でもいい?」  顔を傾けた。薄く開いた唇が触れる直前、いいよ、と紡がれると同時に重なる唇。何度か触れ合わせるだけの行為を繰り返した後、佑の手が洋佑の腰へと滑り落ちた。 「……ベッド、いこ?」  言いながらまた口付けられる。頷き返すと、互いの腰へと腕を回し身を寄せながらリビングを出た。         ◇◇◇◇◇◇◇  ぎし、とベッドが軋んだ。は、と乱れた呼吸が髪を揺らし、顎を伝う汗がシーツへと落ちる。 「ぁ……」  肌を這う掌が熱い。指先が的確に自分の快感を引き出そうと動くのに、洋佑の腰が震えて動きが止まる。 「……大丈夫?」  気遣う様な声をかけながら、緩々と肌を撫でる手の動きはとまらない。佑の指先が小さな突起を擽るのに洋佑は大きく背中を仰け反らせた。 「あっ、ぁ」 「……こうして下から見る洋佑さんも可愛いけど……無理はしないでね」  ベッドに寝そべった佑の上にまたがる格好。今日は自分が動くから、と洋佑が自分からこの体位を望んだのだ。  どこか心配そうな佑の顔に洋佑は小さく頷いた。洋佑が身じろぐ度に佑の腹の上で揺れる性器の先、ぷくりと透明な雫が盛り上がる。 「んっ…へ、き……」  止まっていた腰が動き出す。慣れない動きにぎこちなく腰を持ち上げ、落とす。ぐちゅぐちゅと潤滑剤が結合部で音を立て、互いの肌を濡らした。 「は、ふ…っ、…」  両手を佑の太腿へ置いて体を仰け反らせる。自分の「イイ」ところを探して、腰を回し、上下に揺らす動きに合わせてベッドが軋む。 「……ん。もうちょっと、こっち……」  洋佑の胸を弄っていた指が腰を捉えるものに変わる。ぐ、と引き寄せられると同時に押し当てられる熱に声が一際高くなる。 「ひぁっ…ぁ、や、だめだ、ってば……俺、が動く──あ!」  ぐ、ぐ、と押し付けられる熱に事が途切れる。嬌声を上げながら体を揺らす洋佑の身体を見る佑の眼は熱を帯び、吐き出す吐息も熱い。 「だって……、動き、にくそうだったから」  ぐ、とまた腰を引き下げられる。いつもよりも深い場所に届く熱を感じて、洋佑の下腹がひくついた。 「んぁ!…ふか、……すぎる、から……」 「……これ、くらい?」  ばちゅ、とまだ肌が鳴る。先程よりは優しい動きに洋佑は何度も頷いて返した。 「あ、ア…ッ、……い、……いい」  もはや自分で動くことが出来ず、佑の太腿についた手で身体を支えるだけ。佑が腰を突き上げる度に声を上げて体を震わせる。 「ん──たすく、だめ……これ、よすぎて……」  涙声の嘆願。上気した肌と乱れた呼吸。揺れる性器の先から飛び散る雫は白濁混じりで濁り、何より──埋め込んだ性器へと絡みつく肉壁の動き。快感に溺れる洋佑を更に追い上げようと、佑の指に力が籠る。 「ひぁ!…あ、だめ、出るから……本当に……っあ、ぁ、ァ、あ、…ッ……──」  制止ならない制止。自分の腰を捉えた指を解こうと手が重なると同時、洋佑の性器が跳ねあがり、互いの腹を汚していく。  びくびくと達した余韻に浸りながら、佑の熱へと絡みつく肉壁の動きに佑も熱を吐き出した。 「は──ぁ……、だめって…言ったのに」  ふるりと全身を震わせた後、仰け反っていた背を戻し、逆に覆いかぶさるように。涙の滲む眼で佑を睨んだが、佑は嬉しそうな表情のままだ。 「ごめんね。洋佑さんが気持ちよさそうだったから……」  く、と軽く腰を揺らすだけで、洋佑の表情は崩れる。同時にまだ挿入したままの肉を締め付けられて、今度は佑が眉を寄せた。 「洋佑さん」  何?と視線が返ってくる。腰から手を離すと、滲んだ涙を拭おうと頬へ触れる指に自分から顔を寄せてしまう。 「……やっぱり……僕、洋佑さんがいいな」  プレゼント。  言いながら頬を撫でる手が下へ滑り落ちた。改めて腰を両手でつかんで揺らされると、埋め込まれたままの佑の熱が質量を増していることに気づく。 「…………ん、…わかった。リボン巻いて……待っとくよ」  半分冗談、半分本気の言葉に、佑が嬉しそうに笑う。同時にベッドの軋む音に洋佑は体を仰け反らせた。

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