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37 冬磨なにがあったの……? ※

 冬磨のマンションに着いた。インターホンを押してもなかなか出ない。二回目で「……はぃ」とやっと応答があった。  俺が何かを言う前に「んぇ、あまね?」と、どこか冬磨らしくない声が返ってくる。  エントランスの入り口が開いた。冬磨が何も言わないから俺も何も言えなくて、そのまま中に入って冬磨の部屋まで上がった。 「あまね? なんだよぉ……。きたの?」  開いたドアから中に入ると、冬磨が泥酔状態で俺を出迎えた。 「……と、冬磨、ちょっと飲みすぎだよっ……だろ」  驚きすぎて思わず素が出そうになって、慌てて語尾を言い換えた。  冬磨は壁に寄りかかって、ぼそっと聞いてくる。 「なんで……きた?」 「なんでって、冬磨が呼んだんだろ?」 「へんじくんねぇから……こないとおもった」  あれ、返事送らなかったけ。  送ってないかもっ。後ろ広げなきゃって必死で忘れてたっ。  それにしても、こんな冬磨は初めて見る。目は据わってるし呂律(ろれつ)も回ってない。どれだけ飲んだらここまでになるの? 「……どうしたんだよ、めずらしいじゃんそんなに飲むの」  靴を脱いで部屋に上がる。冬磨をソファに座らせようと背中を押すと、突然ぎゅっと抱きしめられた。 「と、冬磨?」 「……あまね」  痛いくらいに抱きしめられて、理由もわからないのに嬉しくて幸せでめまいがしそうになる。 「冬磨……どうした?」 「……あまね」  まるで喉の奥から絞り出したような切ない声。 「冬磨……?」  どうしたの、何があったの?  こんなに泥酔して弱ってる冬磨、初めてで心配すぎる。  俺で癒せるなら癒してあげたい。  俺を抱きたくて呼んだんじゃなかったんだ。  泣きたいときは呼んでもいい? と前回言っていた。それだったんだ。 「ごめん、冬磨。すぐ気づいてやれなくて……ごめん」 「……きづいて……って、何に……きづいた?」 「泣きたいときは呼んでもいいか? って言ってたあれだろ? 分かってればもっと早く来たのに……ごめん」  すると、冬磨がふはっと笑った。 「なんもきづいてねぇし……。でも、たしかに泣きたかったわ」  何も気づいてないと言われてしまった。  泣きたくて呼んだわけじゃないのに、でも泣きたかったって……本当に何があったの冬磨……。  本屋の前で見た冬磨は普通だったのに。 「なぁ。なぐさめてよ……あまね……」 「……うん。いいよ」  答えた瞬間、俺を抱きしめていた冬磨の腕がゆるみ、ぎゅっと手を握って引っ張られた。  手を繋いで歩くのは二度目なのに、俺の心臓はドキドキうるさく鳴り響く。  冬磨のほうから手を繋いでくれるなんて初めてだ……。  冬磨はそのまま寝室に入ると、俺をベッドに押し倒した。  俺に覆いかぶさって、早急にワイシャツのボタンを外し首筋にジュッと吸い付いてくる。 「……は……ぁ……っ……」  何もかもがいつもと違う。  冬磨はいつも、もっと優しく俺をベッドに寝かせるし、とろけそうな瞳で俺を見つめて頬や頭を撫でて、ゆっくりと顔からキスをする。こんなに余裕のなさそうな冬磨は初めてだった。  唇が離れ、冬磨は俺の首元にそのまま顔をうずめて動かなくなった。 「……冬磨?」 「…………ちがう……」 「え?」 「……あまねの……匂いじゃねぇ…………」  俺の匂いじゃないってなに? と思わず首をかしげた。  敦司の家でシャワーを浴びたから?  でも、いつもホテルでもシャワーに入るし……俺の匂いってホテルの匂いかな。  冬磨は顔を上げると、俺のスーツを剥ぎ取るように脱がせて、身体中を撫で始める。  冬磨の顔、すごく真顔で怖い……。  これはきっと愛撫じゃない。またキスマークを探してるんだ。  全身確認し終わって、冬磨の顔がふっとゆるむ。どこかホッとしたようなその顔に、胸がぎゅっと痛くなった。  冬磨……どうしてそんなにキスマークが気になるの……?  どうしてキスマークが無いとホッとするの……?  それから冬磨は、俺の身体中に唇を這わせた。ときどきチリッと痛みが走る。 「ん……っ、と……ま……」  冬磨は俺を愛撫しながら「あまね……」と、何度も何度も俺の名を呼んだ。  そんなことは初めてで、どこか切なくなるような冬磨の声に、胸が焼けるように熱くなって涙がにじむ。 「ぁ……っ……」  後ろに指が入ってきて、思わず冬磨にしがみつく。  でも、冬磨の愛撫はそこで止まった。  俺の胸にトンと頭を乗せて動かなくなる。 「……ゆる……」  冬磨のつぶやきが耳に届いた。  今日はいつも以上に孔を広げた。  セフレの家にいたことになっているから必死で広げた。  後ろを使った直後ってどれくらいっ? 指何本っ? バレたら怖くて必死で広げた。  どうしよう、ゆるすぎたっ? 「とう……ま……?」    

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