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【出会いの春】 第2話 episode.1

綺麗な男が立ち去ったあと、俺はその場に呆然と立ち尽くしていた。 すると、「みーやーび!!」と俺の名前を呼んで後ろから抱きついてきたやつがいる。 胸の前に回された手をのけて振り向いてみると、やはり中学生の時から友達の宮崎 宏斗がいた。 「……いつも抱きつくのやめろって言ってるだろ」 中学のときから、こいつはみんなに対してすごくフレンドリーで人気者。いつも俺に抱きついては『俺、雅のこと好きなんだよね』とみんなに言う。 だけど、実際それは女受けを狙っていっているらしく、 「雅、分かってないな〜!最近は男同士のイチャイチャが女子に人気なんだぞ」 今日もこんなことを言っている。 「ずっと思ってたんだけど、俺みたいな男に抱きついても女子からの人気は出ないと思うぞ」 宏斗と横に並び、自転車を歩きながらついていく。 一歩、二歩と歩いていくほど桜の木から遠ざかり、何だか名残惜しさを感じる。 名残惜しさ感じている俺の横で宏斗は「分かってないな〜!雅は」と言いながら何故か胸を張っていた。 「何が?」 「雅、お前知らないの?自分が女子から人気あるってこと」 「ほんとに?!みんななんて言ってる?俺のこと」 俺も宏斗と同じで単純だから、やっぱり異性の自分への評判は気にするし、モテたいと思う。 ついにモテ期きたかー!!童貞卒業ー!!と思って胸の中でガッツポーズをしていると宏斗からの返事は意外なものだった。 「可愛いってみんな言ってる」 「え?」 可愛いとかっこいいは最初の頭文字が同じだし、聞き間違いをしていると思い、「俺が、可愛い?」と聞き返すが、当然かのような表情で宏斗は頷いている。 「俺のどこが可愛いんだよ?かっこいいの間違いじゃないのか?」 「いや、間違ってないよ。実際お前可愛くて、男からもモテてたからな」 「………は?」 「……え?あ……言っちゃった」 男からモテる。それを聞いたとき、すべての時間が止まっているかのような錯覚を起こした。 そして、俺は今日、初耳だった。まさか自分が男から好かれていたなんて……。 知りたくなかったと宏斗をジロッと睨む。 そうすると、宏斗はあからさまに目をそらす。 「はぁ……正直知りたくなかったけど、その話は置いおいて、宏斗。お前に聞きたいことがあるんだ」 話題を変えると宏斗は追求されないことにホッとしたのか今さっきまでは泳いでいた視線を俺に合わせて「何?」と聞く。 「お前の友達か、友達の友達とか、ただの知り合いとかの中に、すっごく綺麗な男いないか?」 宏斗は自分の所属している中学だけではなく、そのフレンドリーな性格で他校にもたくさんの知り合いが居た。 だから、あのひと目見たら頭の中から離れないあの男を知っているのではないかと思う。 「あぁ〜、一人ならいるぞ」 「誰だ?!」 俺の食いつき具合いに「どうした?急に」と驚きながらもズボンのポケットからスマホを取り出し、写真を見せてもらう。 しかし、画面にうつしだされていのは全く違う男だった。確かに綺麗だが、あの男には程遠い。 「どうだ?こいつなかなか綺麗だと思うけど」 「確かに綺麗だけど…違うな。こうもっと綺麗で儚いというか……」 「そんな奴いるかよ!」 呆れたのか、宏斗は俺を置いてどんどん走っていき距離が開いていく。 「宏斗!待てよー!」 それが居るんだって、と思いながら俺は自転車にまたがり、宏斗を追いかけた。

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