7 / 10
【出会いの春】 第3話 episode.3
『おにーちゃん!これ見て、これ見て』
朝陽にそっくりなまだ小さな男の子が腕いっぱいにに沢山のどんぐりを抱え、走ってくる。
朝みた謎の記憶と繋がっているようで、男の子の姿は変わっていない。
『いっぱい取ってきたんだな。偉いぞー!!』
俺はすぐ近くに来た男の子の頭を撫で回す。すると『エヘヘ』と照れて喜ぶ。
その顔は今さっきみた朝陽の顔と似ていて、何もなかった土地に一輪の青い花が咲いたよう。
俺はしゃがんで朝陽と目線を合わせる。
『朝陽。俺と取引してくれる?』
『……とりひきってなに?』
可愛らしくコテンと首を傾げる男の子を見ながら俺は着物の腰につけていた佩玉をさしだした。
『これと朝陽のどんぐり交換してくれる?』
全体的に青で作られた佩玉の玉の部分が太陽に照らされてキラキラと輝く。
男の子はまだ小さく、その価値を知らないのか「うん、いいよ!」と俺の手にある佩玉を取り、沢山のどんぐりと交換する。
『あ、あと俺のこと雅って呼んでよ』
『……いいの?おにーちゃん、僕よりずーっと歳上なのに』
『いいんだよ。俺ら友達だろ?』
“友達”という言葉に男の子は今までに見たことのないくらい顔を崩して笑い、何度も『雅』と名前を呼んでくれる。
でも、これは俺の名前だけど俺のことなのか。
目の前の朝陽を見る。
この男が顔を赤らめて名前を呼ぶ男は同じ名前でも俺じゃないのか?
出会って一日も経っていないのにこんな気持ちを抱くのはおかしいと分かっているが、灰色の雲が胸の中で広がっていくようで苦しい。
「俺さ、お前を桜の下で見たときから変な記憶を思い出すんだ。俺は経験したはずがない記憶なんだけどそれを思い出すたびに気持ちがよく分からなくなって。それと、朝陽に似ている男の子が出てくるんだ」
視界の端からそっと朝陽の様子を見てみると驚愕という言葉のまま、驚いて固まっている。
そして、心なしか手が震えているようだ。
俺は焦りながら、朝陽を落ち着けるように「ただちょっとだけ、気になっただけなんだ」と何度も繰り返す。
「……今は…言えない」
朝陽の口からぽろっとこぼれた小さな一言。
俺はそれを聞き取って朝陽が俺の知らない何かを知っていることは分かったが、震えている朝陽を前にこれ以上聞く気にはならなかった。
朝陽を落ち着かせようと話を変えようとするが、丁度いい話が思い浮かばない。
早く早く!と心で唱えているうちに予鈴が鳴った。それをきっかけに「早く戻らなきゃ遅刻するな」と朝陽の手を取って二人教室の外に出ようとする。その瞬間、朝陽にグッと腕を引っ張られ、よろけた俺と朝陽の距離が縮まる。
「……まだ言えないけど、これだけは知っていてほしい。雅がみているのは僕と他の誰でもないあなたとの思い出だから」
朝陽が顔を赤らめて呼ぶ名前が他の誰でもない俺だと分かって何故か分からないが、ホッとした。
だけどそれ以上に俺は顔が近くて、朝陽の綺麗な顔を直視出来ない。
何で俺は男で相手も男なのに女の子みたいに、恥ずかしくて朝陽の顔を直視出来ないんだ?!
しっかりしろと口から出した返事はとても弱々しいもので教室に戻るまでずっと顔は赤かったし、あまりの赤さに渚にも「顔真っ赤だ。もっと見せてよ」とからかわれた。
ともだちにシェアしよう!