8 / 10
【新入生レクリエーション】 第1話 episode.1
沢山初対面の人と出会った、入学式の次の日。
「可愛い女の子にはちゃんとアピールするのよ」というお母さんの言葉を聞き流しながら、自転車に乗り、学校へ向かった。
実は入学式が終わり、家に帰った時、俺の頬があまりにも緩んでいたせいなのか、「あら、可愛い子でもいたのかしら」とか「まさか、一目惚れ?!」と散々からかわれた。
あながち間違っていないが、俺が気になったのは可愛い女の子でも一目惚れした女の子でもなくて、どの人よりも上回るくらいの綺麗な男。
学校に行けば会える、そう考えるだけで胸が高鳴る。
俺は早く会いたいと自転車を立ち乗りして道を急いだ。そうすると大きな下り坂が目の前に広がり、下ると沢山の桃色の花びらが視界を包む。
今日も綺麗だなと桜の木の方を見ると、そこには桜の花も霞むほどの綺麗な男、朝陽が立っていた。
「朝陽ー、おはようー!!」
自転車を一旦止めて、手をふると朝陽が駆け足で俺の方へ駆け寄ってくる。
「ごめん。こんな待ち伏せみたいなことして。でも、あなたに早く会いたくて」
なんて可愛いやつなんだ!俺がこんなことで怒るわけがないのに。
頭を撫でたい欲望に駆られたが、今はグッと我慢をして朝陽をみる。
すると、彼は綺麗な目を伏し目がちにして俺の様子を伺っていた。
そんな自身のなさ気な姿から、目をキラキラさせる笑顔に変えたくて「嬉しいよ。ありがとな」と伝えると、朝陽はたちまち微笑んで「僕も…嬉しい」と言う。
「お前、その笑顔……可愛いな。他の人に見せたら誰か倒れる人出るぞ」
「……ううん。雅にこの笑顔は雅以外に見せちゃだめって言われたから、あなた以外の誰にも見せない」
「……ん?あれ、そんなこと言ったっけ?」
俺は昨日の記憶を思い出すがそんなことを言った記憶がないし、昨日のことだから忘れたということもないだろう。
だとすれば可能性は一つ。
「それは、俺がいつの日か言ったこと?」
俺は覚えていなくて朝陽だけが覚えている思い出。
その中で言ったのだろう。
「……うん。そうだ、よ」
「そっか…!」
朝陽は昨日のように震えていなかったが、俺はそれ以上、何も聞かずに歩きだす。
自分の体の横で自転車をついて、反対側には朝陽がいる。
「でも俺も言えるなら言いたいな〜」
空気を明るく変えるようにあえて語尾をのばす。
「何を?」
「そのめちゃくちゃ可愛くて綺麗な笑顔を俺以外に見せるなって」
呆れただろうか。
朝陽を見ると、反応はその真逆で呆れるどころか満更でもないようだ。
「雅が言うなら」
「え、いいのか〜?そんなこと言っちゃって。俺いっぱいめんどくさいこと言っちゃうぞー!」
「雅のことなら何でも嬉しいよ」
そこまで言うのか、と思ったが、それくらい朝陽は俺を信頼してくれているのだろう。
それに、きっといつの日かの俺たちはただの知り合いではなくてもっと深い関係であると思う。理由はこの瞬間が楽しくてたまらないというそんな単純なものだ。
ともだちにシェアしよう!