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36.
「申し訳ありません⋯⋯、ごめんなさい、ごめんなさい⋯⋯っ」
「あ、おいっ」
その場の気まずさに耐えかねて、身重であるのにも関わらず、誰からも呼び止める声を聞かず、やや小走り気味に立ち去った。
さほどの距離ではないが、自室に入った時にはすっかり息が上がっていた。
一歩、二歩歩いたところで、膝から崩れ落ちる。
「⋯⋯御月堂様は、"あの人"によく似ている」
だから、思い出してしまう。
あの時、偶然にも車の中から見かけてしまった時のせいもあって、ちょっとした言動で重ねてしまい、らしくもない動揺をしてしまう。
あの時から、悪夢を見続けているような不愉快さ。
私のことなんて全く覚えてない、愛しかった"あの子"はどうしているのだろう。
それよりも今気にすべき点は、あのような態度を、よりにもよって依頼人に見せてしまったことだ。
今回のことで、契約は破棄されるだろう。
そうしたら、この子はどうするのだろう。
失態とお腹の子の行く末で己に怒りを混ぜた感情で涙を流していた時だった。
クローゼットの方からだろうか、何やら物音がしてきたのだ。
入れてある衣服が落ちる音とは明らかに違う音に驚き、すっかり涙が引っ込み、次に緊張が走った。
一時期的に住まわせてもらっているこのマンションは、セキュリティが高いらしく、登録された顔認証以外のものは絶対に入れない仕様となっている。
だから、さっきいた人達以外の人だったり、その人達の中でも、ましてや姫宮の部屋に無断で入る者はいないはずなのだが。
不審人物であれば、自分の身よりもお腹の子の方が危険な目に晒される。とはいえ、恥を晒してしまったものだから、誰かに助けを求めることは難しい。
不審人物ではない可能性にかけて、姫宮は意を決してクローゼットの扉を開けた。──のだが。
「⋯⋯小口 さん?」
まさかのクローゼットの中にいたのは、世話係の一人である小口だったのだ。
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