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「どうした」 「あ⋯⋯いえ、なんでもありません」 「そうか」 カップを手に取り、珈琲を啜る御月堂とは逆に、グラスを置いた姫宮は改めて口を開いた。 「あの、御月堂様」 「ん、なんだ」 カップから口を離した御月堂からやや目線を外す。 「⋯⋯このお散歩は最初、お詫びかと思い、あれきりかと思ってました。御月堂様もこのお茶が終わったら、そのままお仕事に向かわれてますし。どうしてお忙しい中、私とお散歩をしているのかと思いまして」 今まで疑問に思っていたことがようやく口にできたため、いつの間にか上がっていた肩を下ろした。 カップをソーサーに置いた御月堂は、口を引き結んだ。 何か言ってはならないことだったのだろうかと思った途端、緊張で鼓動が早まる。 「⋯⋯これも、仕事のうちだ」 しばらくの沈黙の後、御月堂はそう静かに言った。 「将来、私の会社を継ぐ子どもに、私のことを知らしめるためだ」 「知らしめる⋯⋯?」 「そうだ」 あんぐりと開きかけた口を急いで結んだ。 知らしめるというと、その存在を見せつけるようなイメージがあるのだが。 「⋯⋯⋯僭越ながら、御月堂様。前にしたように話しかけた方が得策かと思います」 恐る恐ると言うと、御月堂はピクッと眉を動かした。 怒らせてしまったのかと、さらに心臓がドクドクと鳴る。 ただでさえ、普段から圧迫され、鼓動が早まっているのに体に悪い。 少しの間の後、珈琲を口つける。が、ゴクゴクと勢いよく飲み干した。 いつもなら、淡々と飲んでいる姿しか見た事がなかっため、急にどうしたものかと呆気に取られていると、カップを下ろした御月堂が口を開いた。 「お前は、いつもレモン水を頼んでいるが、他に飲まなくていいのか」 「え⋯⋯はい?」 一瞬、何を言われたのか分からず、放心状態でいると、「どうなんだ」と促され、姿勢を直した。

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